すべてがFになる       森 博嗣


講談社文庫

ヴァーチアルリアリテイを実体験する小説で岡嶋二人の「クラインの壷」を思い出した。しかしこちらの方がより過激、技術的…・・?
真賀田四季は九歳の時、プリンストン大学からマスターを授与され、十一歳でMITの博士号を取った天才少女だった。14歳の時、両親を殺害したかどで起訴されたが、心神喪失として無罪をかちとった。しかし以後人間嫌いになり、三河湾に浮かぶ妃真加島に真賀田研究所を建て、そちらに引きこもった。N大工学部建築学科犀川創平のゼミでは彼女に会おうと、夏、妃真加島でキャンプをはることになった。
彼女との面会はいつもパソコンを通じて行われ彼女が人前に出ることはない。しかし最近彼女が現れないことに不信を持った研究所副所長山根幸宏は犀川たちと部屋に入ることにした。ところが部屋からはウエデイングドレスに身をまとい、両手両足を切断された死体が台車に乗って現れた。
部屋への出入り口は一つしかない、最近の監視ビデオによれば部屋に出入りしたものはいない、という完全な密室での殺人だ。しかも研究所をコントロールしているデボラシステムは最近ハッカーでも入ったのか、メールを送るなどの外界との連絡が取れない状況を招いている。屋上にヘリコプターがあり、その無線を使えば、との提案がなされ、駆けつけるが、計器が破壊され、所長で四季の叔父にあたる新藤清二が刺し殺されていた。
警察への連絡すら取れない。孤島の謎に犀川創平がいどむ。
設置からFFFF時間、つまり256*256=64536時間後に、異常を起し犯罪を可能ならしめる「トロイの木馬」を思わせるシステム、ビデオシステムで同じ名前のファイルを創り出し、それによって過去の記録を消してしまう犯人のアリバイ作り、自由を得るために子が親を、あるいは親が子を殺すように設計された世代越しのシステム、ヴァーチユアルレアリテイシステムを体験しながら行われる解決編…・と後半は面白そうな話がいっぱい。

推理小説を書こうとするとつい現実にそのようなことが起こりうるか、動機は正しいか、技術上の問題点はなどとつい考えてしまう。その結果できあがったものは実生活のにおいがしすぎて夢の無い物になってしまう。この作品はそこを割り切って、物事を、通常は常識と思われているところまで、論理の目で見直し、ぐいぐいと読者を追い込んでいっているところが素晴らしいと思った。

・最初に死体を処理して、バスルームの僧時をしたロボット…、これは複数かもしれない ね。これを解体する別のロボットがいて、ダストシュートに捨てる。今度はその解体ロボットを解体するもう少し小さいロボットがいる。(301P)
・ ほとんどの人は、なぜだか知らないけど、他人の干渉を受けたがっている。でも、それは、突き詰めれば、自分の満足のためなんだ。他人から誉められないと満足できない人って多いだろう。(358P)
・ 仕事をすることが人間の本質ではない。ぶらぶらしているほうが、ずっと創造的だ。それが文化だと思うよ。(359P)
・ 生きていることは、ニキビのようなもの…・病気なのです。…・眠りたいと思うでしょう?眠ることの心地よさって不思議です。なぜ、私たちの意識は、意識を失うことを望むのでしょう?意識が無くなることが、正常だからではないですか。(495P)
000706