杉の柩    アガサ・クリステイ


ハヤカワ・ポケット・ミステリー SAD CYPRESS 恩地 三保子 訳

 エリノア・カーライルとロデイは幼い頃から仲が良く、将来は結婚し、伯母の住んでいる美しいハンターブリイに住もうと考えていた。そこに匿名の手紙で、伯母が危機に陥っているとの報、あわてて出かけてゆく。伯母は門番の娘メアリーと仲が良く、オブライエン、ホプキンス二人の看護婦が面倒を見ていた。しかし、重態でやがて書こうとしていた遺書を書く事も無く、亡くなってしまった。看護婦ホプキンスの元からモルフィネがなくなった、事が発覚する。
 そして法律通りゆけば、エリノアに全財産が入る予定。ところがロデイーがメアリーにふらふらとなり、エリノアと別れる事になり、ハンターブリイは売りに出される。そして遺品を整理する中、エリノアの作ったサンドウイッチでメアリーが死んでしまった。当然のようにエリノアが、ローデイをメアリーに取られたため、復讐したと解釈され逮捕された。
 ピーター・ロード卿の依頼で、真相究明にポアロが乗り出す。不思議な事にこの事件は何処から見てもエリノア犯人説が有力、しかし庭番の証言から、サンドイッチを作っているときに第三者が見ていた事を発見したポアロは、犯人は、エリノアを殺そうとしたのだという事を発見する。そしてメアリーを通じて、財産獲得をねらった女性とは・・・・・。

 一つ一つ章だてを変えて、ポアロが真相に迫ってゆく記述が興味深い。また情感豊かでちょっと文学作品を読んでいる趣。

・僕たちは理想的な結婚ができると思うな。十分愛し合ってはいるが愛しすぎてはいない。良き友でもあるし。趣味もぴったり合うし。それに、とことんまで分かり合ってるしね。(19P)
・「人間の顔は、結局仮面みたいなもんじゃないでしょうか。」
「それで、その下に隠されているものは?」
「生地の男と女でしょう。」(49P)
・人生とはそんなもんですよ。なかなか思い通りには運んでくれない物でしてね。感情を無視して理知の導くまま、理屈に適った生き方をしようと思うのは無理な事です。(135P)
・「ではもし致死量のモルヒネを嚥下して、二、三分以内に、塩化アポモルヒネを適量を注射すると、どういう結果になりますか。」
「ほとんど直ちに嘔吐がおこり、前に塩化したモルヒネは全部排出されます。」(203P)

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