砂のクロニクル      船戸 与一


新潮文庫

 クルド族は主としてイラン、イラクの山岳地帯に住む遊牧民族で、イスラム教スンニー派が主体。長い間独立を要求してきたが、成功していない。
 アヤトラ・ホメイニ独裁下のイラン。イランとイラクに住むクルド人が共同して、なんとか彼らの聖都マハバードを占拠し、夢を実現しようと画策する。国際的な日本人武器商人からカラシニコフ銃二万丁を購入しようとしている。一方、ホメイニ政権下で革命防衛隊に身を転じた、サミルはふとした事件で認められ、クルド人対策を命ぜられる。
 ハッサン、サラデインを中心とするゲリラ基地での聖都占領計画の進展、駒井やアゼル人ゴラガシビリによる武器の調達、革命防衛軍サミルのクルド対策と腐敗した軍内部での決起計画の三つを同時並行的に、しかも1章毎に完結するドラマをつなげる形で書かれている。その間に非情な殺人があり、激しい恋があり、何度も読者は感動させ、涙する仕掛けになっている。歴史的事実を下敷きにしながら、全く新しいドラマが組み立てられている。
 やがて最終舞台。マハバードの革命防衛隊基地では、サミル等の軍内部での決起が始まるが、拘禁しておいた不賛成分子(体制派)が立ち上がり、混乱状態が形成される。そこにカラシニコフ銃で武装したクルド族が押し寄せる。これで決まりかと思われた頃、突然上空に戦闘機。戦闘機はクルド族内部のみでなく、革命防衛隊本部にもミサイルをぶち込む。サミル等の決起の話を聞いてテヘランでは「革命防衛隊地方支部とクルド族双方を殲滅してしまえ。クルド族が地方支部を襲ったことにし、終わってから彼らを締め付ければいい。」と判断したようだ。革命防衛隊とクルド族の死体がヤマとなって行く・・・・。

・二元論のゾロアスター教(下24p)
・ヤズドの町の拝下神殿(下25p)
・ソ連邦のキリスト教対策(下68p)
・国境は政治的な理由で決められるべきじゃない。同じ宗教や同じ言葉を持つ民族が一緒になって国家を作るのが一番なんだよ。(下75p)
・ナパーム弾(下451p)

(砂の上のクロニクルノート)
序)フェダイン・ハルクの日本人闘士だった俺は2年前に密告に会い、殺されかかった。今パキスタンからセブンアップ密売人に姿を変え、テヘランへ。オマル・ムルクの口から密告者が、尊敬するダルヴィッシュだと知る。しかし不用意に昔の恋人シーリーンの弟サミル・セイフに撃たれ、気がついたときは病院の中。片足を失っていた。
1)それから9年後、ロンドンに住む日本人武器商人ハジこと駒井は、クルド人独立運動家ムハンマド・アバースの訪問を受け、武器購入のための条件を示す。アバースは、駒井の別れた恋人パトリシアを人質に取っていた。駒井は、連絡方法で間違いを犯したエデイを殺す。
2)革命防衛隊のサミルは、イラクとの国境に派遣されていたが、クルドの富豪タフムスデイが処刑されるのを見て驚いた。裁判もなしに彼を処刑し、一家を悲惨の極に追いやった上官を射殺する。翌日処刑されることは間違いないと思っていたところ、情報部副部長ガマル・ウラデイに呼ばれ、その行為を腐敗分子を処刑したまでと賞賛され、逆にこれから蜂起するであろうクルド人弾圧の任務を任される。
3)モスクワについた駒井は、グルジアの武器商人ゴラガシビリにナターシャの誘導で会う。首尾よく武器購入の話をまとめるが、民警でナターシャの父親が、侵入。駒井等を拘留しようとするが一瞬の隙を見て反撃、倒す。
4)クルドゲリラのハッサン、サラデイン、ニジャームは、聖都マハバードに行き、同胞を売っているニジャームの叔父と母を殺す。第二夫人はシーリーンで、彼女の誘導で死体を河原に埋める。しかし母がニジャームに「お前の本当の父親はこの叔父さ。」と最後に言ったことを非常に気にする。三人は帰り道サミルの革命防衛隊にであう。サミルは彼らがゲリラであることを見抜く。
5)サミルは捜査の途中で姉のシーリーンを発見、河原で死体が発見されたことから、彼女が殺害に関わったことを直感できづき苦しむ。サミルは革命防衛隊地区本部も腐敗していることを知り、決起に誘われる。
6)左足を失った日本人闘士は、ゲリラ基地で生活している。イラククルド、イランクルドが1羽の鶏がいなくなったことで争ったが、ニジャームが連れてきた犬にかみ殺された事が分かった。犬は結局殺されたが、これに落胆したニジャームは自殺してしまった。武器商人からの連絡が途絶えた。
7)駒井は、かっての同士アルダシルに導かれてバンダルエアンザリ港に向かう。途中おってきた革命防衛隊のホルミズドを倒す。
8)ゴラガシビリは、沿岸警備隊のタマラと激しくやっている。彼の指令でAKMカラシニコフ銃二万丁がすでに集められている。チュルキノフはアゼル独立運動の一人でタマラと協力している。石油タンカー船長はギュルセフスキー。でがけにヴェラ・デミチョフスカヤが積み荷を調べるとわめいたが、ゴラガシビリが殺す。
9)サミルは、親友のアハマド・バールにも詳細を打ち明けづ、シーリーンを訪問。彼女の肉体目当てで来ていたバクラバン等二人を殺す。数日後に決起を考えているオストヴァンを呼び事件をもみけす。ウラデイが来るという。
10)港でゴラガシビリは駒井、アルダシルと面談。銃が次々陸揚げされ、トラックに積まれて行った。駒井は、ゴラガシビリにイラン脱出を依頼。仕事が終わってゴラガシビリは、タンカーで北に向かうがKGBに待ち伏せを食う。挙げ句の果て、いつの間にか現れたタマラ、チュルキノワ等に海に放り込まれてしまう。
11)ゲリラ基地。いよいよ明日は出撃という日、イラン・クルドのハッサンは、イラク・クルドのハリーダに誘われ激しいセックス。しかしハッサンの兄で堅物、イラククルドに主権を取り返したいと願っていたサラデインに発見される。争いになり、サラデインが殺される。片足の日本人闘士が独力で戦場に赴く。
12)駒井とアルダシルは革命防衛隊の検問に会いながら武器を輸送。しかし途中アゼル人の暴動にあい、ここを強行突破するも駒井三発の銃弾を食らう。
13)ゲリラ基地。セイフは、決起の話を親友バールに打ち明けるが賛同をえられず、倒してしまう。セイフは、突然やってきたウラデイ副部長に要求されて、彼をマリスヴィ第二夫人でシーリーンの元に連れて行く。しかし一瞬の隙をついて彼女は副部長があのダルヴィッシュと見抜き殺す。決起が始まった。一部を倒したが捕らえたものが反乱を起こし、混乱。そこにクルド人の襲撃が起こる。そして突然テヘランから戦闘機が飛来。クルドのみでなく、革命本部にもミサイルをうちこむ。テヘランの考えはすべてをたたきつぶし、クルドのせいと世界に発表しようと言うのだ。
それらを河原から駒井とあの片足の日本人が眺めている。
14)2年後の片足の日本人の思いで。シーリーンと森の中でしばらく暮らした後、彼女の死、そして彼自身も今生を終えようとしている。

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