退職刑事 都筑 道夫


徳間文庫

 本格的なベッド・デテイクテイヴもので、非常に面白い。トリックを重視しているところは捕物帖の砂絵シリーズと同様で。短編であるが十分長編にも変換できる内容をもっているように思う。あとがきの以下の文は作者の考え方を示しておりなるほどと思った。
 「私の考えでは、アームチェア・デイテクテイヴ・ストーリイのもっとも理想的なものは、ジェイムズ・ヤフイのママ・シリーズだ。現職の警官が、一目置いていて、しかも遠慮のない相手に事件の話をする。こういう簡単な枠組みでないと、本題に入るまでに手間がかかって、マンネリズムが目立ってしまう。そこで、私はママ・シリーズの設定を踏襲することにして、退職刑事の父親と現職刑事の息子を、考え出したわけである。この姿勢を安易と見る人が、あるかも知れない。けれど、私は推理小説では、新しい壷に古い酒をくんで差し出すよりも、古い壷に新しい酒をつぐほうが、正しい行き方だと信じている。(248p)」
退職刑事と言うことで殺意の断崖(神崎省吾事件簿)を想起した。
写真うつりのよい女
歌舞伎町のクラブに勤めるホステス小池雅子が男物のパンツをはいただけで、首を絞められて殺されていた。現場から雅子とそれぞれに相手役の男の違うポルノ写真が5,6枚発見された。ただし、相手の男たちは、雅子から強請られていた訳ではない。大家のおかみはドアを叩く音に続いて「あんた、やっぱりここへ来たのね。」「警察を呼んでもらうわよ。」などの声を聞いている。容疑者は5人、不動産屋社長、若手写真家、貿易会社社長、写真に映っていたアクセサリー販売のうそつき男、同じく落ち目の映画俳優・、まず犯人はポルノ写真に映っていた方が有利と考えるか、そうでないか?
妻妾同居
高利貸し東谷徳造は58才、39才の妻と絹という31才の妾を同じ屋根の下に住まわせ、性剛として知られていた。妻は、その徳造が死体となって床にころがり、側に凶器の青銅の仏像を持った23才の才賀妙子が立っていた、と言う。そして側には被害者のセックス日記、なぜか最近の数ページが切り取られていた。妙子は私は自分の体を売る条件で、徳造から金を受け取る予定で来たが、既に殺されていた、と主張する。妙子が受け取る金には手がつけられていなかった。徳造は本当に性剛だったのだろうか。
狂い小町
精神に異常を来している佐伯文子は、神谷鉄二の描く「狂い小町」のモデルを務めていたが、宮西家の台所で、ホースで首を絞められ死んでいた。化粧を落とし、裸に近い形だった。宮西家は会社員と息子二人で住んでおり、昼間帰った大学生の助(たすく)が発見した。変質者の犯行か。佐伯家には、もう一人文江という妹がおり、彼女には最近縁談が持ち込まれていた。また文江は治療の結果、精神病が治癒しているのではないか、との疑いも持たれる。被害者はなぜ、化粧を落とし、裸に近い形だったのだろうか。
ジャケット背広スーツ
中年の未亡人がお酉様で売っている熊手を持った姿でめった突きに刺されて殺された。甥で素行の良くない福地敬吉が疑われたが、「その日さらに借金を頼もうと出かけたが、叔母宅にはよらずに戻った。本郷三丁目の地下鉄を出たところで、背広を着てさらに手に2着持っている男にであった。そいつに聞けば私の言うことが本当だと分かる。」と主張する。お酉様の意味は何か、背広の男は何をしようとしていたのか、二つの観点から恍惚、いや恍惚親父の推理が始まる。一つの事実から多くのことを演繹する語り口は、ハリー・ケメルマンの「九マイルでは遠すぎる」を思い出させた。
昨日の敵
須崎織江を妊娠させていた飯塚繁二郎が、道端で頭を殴られて殺された。織江が「少し前に壊された赤ん坊の人形、男女のマネキンなどが発見されたが、あれは妻の光子の殺人予告に違いなかった。」と主張する。事件当日、光子は家をでた夫が戻らないので、織江に電話をかけたと言う。裸の織江が電話を受けるところは、覗き趣味の学生によって確認されている。何か妻と愛人は互いに攻撃しながら、相手のアリバイを申し立てているようにも見える。「恐るべき女たち」を思い出しますな。
理想的犯人像
自首してきた増山泰治の証言は「酔っ払って、同じ会社の事務員の女性のマンションに侵入し、いたずらをしているうちに絞め殺してしまった。」ところが警官が一緒に赴くと女性はいなくなっていた。それだけなら良いのだが、件の女性は外出着に着替えて、近くの公園で絞め殺されていた。いたずらした女性は別人だったのか、件の女性はなぜ殺されたのか。ジャックレモン主演「アパートの鍵かします」を思い出しました。
壜づめの密室
棚橋大輔は、軍隊時代に助けた商事会社社長舟津恵吉の屋敷のはねれに、居候をしていたが、近くの氷川神社で死体で発見された。殴られたうえ、崖から突き落とされたらしい。舟津の家の応接室には棚橋が作った立派な壜づめの船の模型があったが、事件の1週間ほどまえ、その甲板上に3センチほどの首なし人形が載っているのが見つかった。あれは、殺人予告だったのだろうか。
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