タイトルマッチ        岡嶋二人


講談社文庫

 重松ボクシングジムの琴川三郎は、9月3日に行われる世界ジュニアウエルター級タイトルマッチでチャンピオンアルフレッド・ジャクソンと対戦する事になり、練習に余念がない。ところが同ジムの同級元世界チャンピオン最上栄吉の十ヶ月になる子供健一が誘拐された。犯人の要求が変わっていて「ジャクソンをノックアウトで倒せ。さもなければ子供の命がない。」
 脅迫状の意味はなんだろうか。考えるうちに琴川が倒さなければならぬと力むあまり、本来の力が出せず負けることを期待しているものらしく考えられた。とすれば犯人はボクシング選手ではないだろうか。一方琴川はノックアウトを狙って無茶をする内に右手指を骨折してしまった。放棄しても子供の命はない、と書かれているから、辞めるわけにはゆかない。琴川の真実を隠蔽しながら、作戦を考え本番に臨む姿がよく描かれている。
 恒川ジムの城所兼雄は不幸なボクサー、世界ランク入りを3年間も続けながらチャンピオン挑戦の機会が与えられなかった。ジムに力が無かったのである。結局ジムの若手瀬戸内剛を売り出すために重松ジムの種川昌弘と前座試合を行ってもらう代わりに、琴川三郎を世界へ押し出すために隠退直前戦ってやらざるをえなかった。
 女性からデパートでお守り袋を拾ったとの届け出があり、それが健一のものであったことから事件がほぐれ始める。その女性にわざと突き当たった二人組の内の一人が城所らしい、とわかり、警察は怨恨説を考え、犯人として行方を追う。ところがその城所は死体で発見された。執拗な脅迫はまだ続いている。
 いよいよ試合が始まる。倒し、倒され一進一退のゲーム。その間にも城所と一緒にいた男とその男をつけていたデパート女店員を追って捜査が続く。そしてあっけなく髪を切り、衣服を替え、名前を変え、デパートに置き去りにされた後、保護されていた健一が発見された。犯人はすぐ側にいた・・・・。琴川は結局破れるが、再選を約束するジャクソンとの爽やかな別れが作品に明るさを与えている。
 作者は「あした天気にしておくれ」(馬の狂言誘拐と悪のり)、「どんなに上手に隠れても」(スターの宣伝目的誘拐)、「99%の誘拐」(復讐目的で追跡者が実は誘拐犯)など数々の誘拐作品を残しており、得意な分野の作品のようだ。
 今回の犯人の要求はタイトルマッチでノックアウトで勝て、と変わっている。この要求内容から犯人が絞られるが、読者をミスリードするセオリーも型通りで、何となく城所ではないかと思わされてしまう。同時にボクシング業界内幕のようなものが、面白く描かれていて興味深い。最終部分で試合の経過と犯人追跡の様子を交互に描いて、話を盛り上げている。

・勝たなければ健一君の命が危ない、という思いは、琴川にとって負担になるだけです。・・・・力量も技術も同じ程度のボクサーが試合をっする場合に、最後に勝ちを決めるのは、心なんです。(38p)
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