探偵映画           我孫子 武丸


講談社文庫

 私たちは、映画の鬼才大柳登志蔵のもとに、新作「探偵映画」のクランクインに入ったが、誰一人としてその結末を知らされていない。そんな状況の中、もう少しで終わりと言うときに監督が失踪してしまった。
 嵐に閉ざされた邸宅で、奥様の死のシーン。残された遺書。そして看護婦の墜落死。この話の結論をどうもって行くか。映画が出来なければ、私たちの会社は解散!崖っぷちに追いつめられたスタッフは「誰が誰を殺した事にすればまともな映画になるか。」(132p)の観点から、犯人探しを始めると共に、各人各様にシナリオを作ってみる。そして完成。しかし新聞社がかぎつけて「大柳監督失踪か?」と報道。
 絶望の中、私の好きな美奈子が「私が監督の居場所を知っている。」監督が発見され、彼が完成させた作品を見ると、最後は最初の奥様の死のシーンに逆戻り。実はカット・バックだったのだ。ただ、トリックとして成立しているのは最後までカット・バックしていることが分からないという点なのだ。映画は大ヒットをし、私はまた大柳監督と働く気になりはじめた。

 この作品の魅力は作者の映画解説にある。またクランク・インからアップまで、あたかも映画を自分で作るような雰囲気があるところも良い。巻き込まれ型事件の典型であるが、警察の力を入れることもなく実にうまい運びと思う。
 新保氏の解説では「毒入りチョコレート殺人事件」を思わせる、としているが、趣は大分違う様に思う。全体パット・マガーの作品のようでもあり、また枠構造を強く意識させる点では都筑道夫の「三重露出」などを思わせた。またこのような作品については最初に映画制作中に監督が失踪する、種明かしはカット・バックさえ決めておけば、後はかなり書いて行く過程で考える、という手法が取れるのではないか、と感じた。

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