鬼火・探偵小説           横溝 正史

かいやぐら物語(横溝正史集 東都書房)
そのころ私は海辺で傷ついた体を養っていた。月の夜浜辺にでて、打ち寄せる波の音を聞き、煌々とてる月を眺めた。そして私は二枚の貝を合わせて不思議な音を出している娘にあった。
貝殻を聞く話から、娘はある医学生と資産家のお嬢さんが自殺した話をしだした。
「二人は懇意になり、男女の仲は急に進行して行きましたが、と思うまもなく、この人たちの間に一緒に死のうという約束が成り立ってしまったのです。
青年のお得意の薬を飲んだのですが、青年だけが助かってしまいました。青年は秘密を守らねばならぬと考えたからか、娘の事が忘れられなかったのか、何とか死体をそのままで保存しようとしました。眼だけはそのままというわけにも行かぬのでガラスで造っていれました。
やがて冬去り、春逝き、夏はてて再び秋がめぐって参りました。村の人が怪しんで中にはいると青年はベッドの上に死んでおり、そばには象牙のように白くさらされた白骨がもう一つ横たわっていました。眼窩には一隻のガラスの眼が宝石をちりばめたようにしっかり食い入っていました。」
娘は「つまり人間というものは生きている間がはななのですわ。」と去っていったが、なにやら光るものが二つ落ちていた。ガラス製の義眼であった。
初期の作品だが、一種の詩と言う感じである。最後の所は渡辺啓介「義眼のマドンナ」を思い出した。(1936.1)

・かいやぐら「貝櫓・蜃楼」(蜃楼の訓読語。「蜃」はオオハマグリの意)蜃気楼のこと(広辞苑)

鬼火(創元推理文庫 日本探偵小説全集9)

私は諏訪湖のほとりの荒れ果てたアトリエを訪ねた。翌日湖畔に草庵を営む俳諧師竹雨宗匠をたずねそのいわれを聞いた。
 かってこの土地の豪家、漆山家本家に万造、分家に代助と言う跡取りが生まれた。この二人は幼い時から頭は良かったが、やたらと対抗心が強かった。女友達の恋文を届けてやると称して、それを口やかましい体操教師に拾わせて相手を陥れるなど、どんなことをしても相手を出し抜こうと力を尽くした。
 何年か経って二人は画家になり、高円寺と中野にアトリエを構え、同じ美術展覧会に出品しようと必死になっていた。あるとき万造は、代助の留守に訪れ、制作中の絵を見ると共に、左翼関係者から預かったトランクを見つけ、これを種に代助を陥れてしまう。その上、モデルのお銀を奪って、関西に出奔。しかし鉄道事故にあって、万造は面を着けねばいられぬ程のひどい顔になってしまう。その後万造はお銀とあのアトリエに移り住み、ひっそりと暮らしていたが、代助が訪ねてくる。表面和解しながら、戦わねばならぬよう運命づけられた二人の邂逅はやがて殺人劇へと発展して行く。
 横溝一家は昭和9年から14年まで信州に滞在、作家への道を目指したが、そのころの作品。名作と呼ばれる作品の一つだが、やたらと暗さが気になる。(1935.2-3 33)

探偵小説(創元推理文庫 日本探偵小説全集9) 
 寒い駅の待合室で、作家が1月ほど前に起こった女学生殺し事件を題材に考えた推理小説の梗概を、同行の女性に聞かせる、というスタイルをとっている。作家の推理がよく当たっていたために、聞いていた犯人が心筋梗塞で死んでしまうというおまけ付き。
 事件は、ある素封家の娘の女学生が、土曜日に古屋先生に個人教授を受けに出かけたあと帰ってこない。偽電報で古屋先生が素封家を訪ねる話があるが、そこは省略すると、捜索の結果2日後、ずっと離れた神社で件の女学生の絞殺死体が見つかった。
 実は古屋先生が妊娠させた彼女を自室で殺したのだが、その死体処理方法がふるっている。まず物置小屋に隠し、同居の婆さんの眼をごまかす。夜陰にまぎれて死体を運び出し、貨物列車の上に載せる。貨物列車はしばらく行き、急カーブを曲がったところで、遠心力で死体を落下させる。そこにはほかの車両の屋根の雪も落ちるから、死体は埋もれてしまう。翌日夜、先生は、死体を掘り出し、足跡を付けないように小川に沿って死体を運び、神社近くに埋める。捜索に当たっては自分が先頭に立ち、死体をいの一番に見つけ、うっかり落とした証拠の品を回収する・・・・。
・死体を列車の屋根に乗せての移動・・・・鮎川哲也「黒い白鳥」(1946.10 44)

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