天国からの銃弾         島田 荘司


光文社文庫

短編集。全体読んで島田荘司は詩人だな、と思った。表現が実にロマンチックだ。
ドアX
「あなたの夢をかなえてくれる人は「X」という文字の書かれたドアの中にいます。」易者にそう言われて私は世界的な大スターになる夢に思いをはせる。私は運動神経があり、音感があり、歌がうまくて、おまけに容姿がきれい、世界的なスターになるように運命づけられている。脚本も書いた。それを気に入ってくれたパラマウントの大プロデユーサージョージ・ギャグニーに送った。私は尾台のダンススタジオでレッスンを受け、森田がやっているしゃれたたカフェアステアでお茶を飲む。
アステアのマスター森田嗣治は地上げやを追い返した後、もう六十四歳にもなったマキ子の事を思う。私とマキ子が岩手の片田舎から出てきたのは昭和二十六年だった。同じ頃軍隊時代の友人尾台がダンスを教えだし、マキ子は夢中になった。しかしその尾台が暴力団に殺され、おかしくなった。精神病院に入るまでになった。
今私は、マキ子と尾台の間に出来た直子にあわせ、マキ子を現実に立ち向かわせようと何とか工夫している!

この作品で感心したのは主人公のセックス論。

「女は、性的快感を与えてくれる男に対してでなくては、絶対に隷属しない」
「私の体験から言うと、セックスの快感は、ジェットコースターの快感とごく近似する」

「生殖のために行う性行為で、ある動物が、まるで魂を失ってしまうほどに快感を得るということ自体がそもそもおかしいのである」
「なぜ感じるのか。それはセックスが道徳が命ずるところの生活の営みと、正反対に位置する行為だからである」(13−15P)
首都高速の亡霊
嵐の近づいている夜、善福寺川近くの古いビルの五階にに住む霧原桃代は誤ってベランダから鉢植を落とした。階下に降りると頭から血を流した男の死体。大変だ、死体をどうしよう。たまたま来た恋人と二階から外を眺めると、どういう訳か交通渋滞で車が止まっている。恋人の思い付きで二階からバスの上にはしごを渡し、死体をバスの屋根の上に乗せた!
駅前の三流クラブ、首都高速エンジニアリング社長の寺田は、業界の事情を知る昔の部下坪井平太に強請られていた。「娘に家を買ってやりたい。三千万円出してほしい。私が世話したあなたの女に少し安いマンションに移ってもらえば分けないでしょう。」殺さざるを得ない!そう寺田は決心した。アリバイ工作をした上、坪井を善福寺公園近くに呼び出し殺す計画を立てた。ところが酔った坪井が歩き出し、狭い路地で撲殺してしまった。何か物が壊れる音がした。死体を車で運ぼうとしたところ事故、しばらくして戻るとなんと死体が消えている!
そのままにして首都高速脇の自宅に戻り、自室から眺めると・・・・・。
ヒッチコックが監督をした「ハリーの災難」と横溝正史の「探偵」を組み合わせたみたいな恐怖小説、と思った。坪井の強請の書き方が実にうまい。微にいり、細にいりで本当に脅迫者のいやらしさが良く出ている。話が単純なわりに良くここまで書けるものと感心する。トリックとしてはいつものように?荒唐無稽も良いところだが、それを越えて面白さを感じさせる。
天国からの銃弾
私は川崎駅近くに住居を構えたが、元からあった「火の見櫓」を書斎とした。そこに1000ミリの大望遠カメラを持ち込み西に沈む夕陽を毎日撮っている。そこからは名高い川崎のソープランド街が見渡せ、夕陽はソープランドにある六つの自由の女神像の真ん中にいつも沈んで行く。
ある時息子と私は、今までに撮った写真を見ていて面白いことに気がついた。火曜日の夕方、京浜急行が通る時に限って、ある自由の女神の目が赤く光ることがあるのだ。しばらくして息子がいなくなり、目の光る自由の女神のあるソープの屋上で首吊り死体となって見つかった。私が調べると息子がソープに時々行っていたこと、麻薬をやっていたこと、友人から猟銃を借り出し返していないこと等が分かった。
それからしばらくして、今度は暴力団らしい男が、従業員を殺し、嫁と孫を人質に自由の女神に逃げ込んだ。私は火曜日ごとに自由の女神を的に射撃練習をしていた男を脅し、銃を借り出して暴力団らしい男が立てこもっているソープの反対側のソープに向かう。射撃には自信がある!
出だしのカメラからのぞいた自由の女神と西に沈む太陽の描写が素晴らしい、やっぱりこの人は詩人だと思った。自由の女神の目が光る、と言うところは樹下太郎の「夜空に船が浮かぶとき」(散歩する霊柩車)を思い出した。
000928
(1992)