テニス、そして殺人者のタンゴ   斎藤 純


講談社文庫

 中島は、勢力争いに巻き込まれ、本店を追い出され、東北は盛岡勤務。ミカドヤ・デパート営業本部販売促進課企画課室長と肩書きは立派だが、部下がおらず、一人ですべてとりしきらなければならない。趣味はテニスにジャズに車と幅が広い。ブリックレコードの千倉から、幻のピアニスト伊豆田敏郎の演奏テープが発見された、仙台のグルーヴィンで視聴会をひらくと聞き、親しい天竺茶屋を経営している菅野とポルシェ・シンクロをぶっ飛ばして駆けつける。会場には販売を考えているアメリカのレコード会社副社長まで来ていた。
 ところが翌朝、千倉がいないとの連絡でホテルを調べて見ると菅野のバスルームで鈍器で殴り殺されており、菅野は行方不明になっていた。僕は過去の名車の紹介テレビを企画している南部テレビの柏葉一征、テレビに出たがっているデイスコ・バーの毬子、かって最高のテニスプレーヤーだった相馬林理絵等とつきあいながら事件の情報をたぐって行く。
 伊豆田は決して自分の演奏を録音させなかったから、今頃彼のテープが出てくるのは奇異だった。。二十年前、彼の車が燃え、中から称焼死体が発見され伊豆田と断定された。やがて菅野が電車に飛び込んで死んだ。警察では菅野が千倉を殺し、追いつめられて自殺した、と発表し、捜査を打ち切った。
 あの菅野が自殺するわけはない、と信じて、聞き歩いているとバイク仲間に車マニアのシロヒゲなる老人がいることが分かった。周囲のものはその男の身元を知らない。毬子の手引きでようように聞き出し、山小屋を訪問、車に話を向けながら昵懇になり、夜半、ジャスのレコードを治めてある部屋に忍び込む。伊豆田がベースを弾いているレコードを多数発見!見つけたシロヒゲに「あなたは死んだはずの伊豆田敏郎だ。あなたは菅野さんの死に深く関わっているはずだ。」と叫ぶ……。

 テニスとジャズと車のマニアックな話の中に推理小説がひっそり紛れ込んでいるような作品。かって土屋隆夫は「推理小説はわり算の美学であり「事件÷推理=解決」という数式で示される小説形式で、算出された答には少しの剰余もあるべきではない。」と主張した。そうした考えから見る主人公はどこまで真剣に推理しようとしているのか伝わってこないし、事件には関係のないと思われるおしゃべりも多すぎる。しかそこがこの作品の魅力であり、本来このような作品を推理小説とくくってはいけないのかも知れない。読者は小気味よい文章と共に、作者のマニュアックな話とうんちくに自分の趣味を重ね合わせて酔いしれれば良いのかもしれない。

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