幻冬社ハードカバー
昭和初期、金俊平は、大阪の韓国人密集地域にある蒲鉾工場東邦産業で働いていた。身長183センチ、100キロを超す体重を持つ彼は、自己中心的で気が短く、喧嘩早いところから極道からさえ恐れられていた。ある日、仲間が飛田遊郭の女郎八重に溺れて行き詰まり自殺した。金俊平は、彼女を身請けするが、逃げられてしまう。自棄になり、警官を叩きのめして東邦産業を馘になり、大平産業に移るが、数ヶ月後、飲み屋を子連れで経営する美貌の李英姫を陵辱して、強引に結婚する。
やがて日中戦争から太平洋戦争、日本は暗い時代を迎える。長男を事故で死なせた当たりから夫婦仲は冷え、英姫はたまに帰る夫の暴力に怯え、商売に専心するようになる。英姫の前夫の子春美が結婚してまもなく、金俊平は、三人の子供を連れて家をでて東京に向かうが、面倒を見ずに赤ん坊を餓死させる事態にまでいたってしまう。
そして戦後、飲んだくれていた金俊平は、英姫に金を出させて蒲鉾工場を設立するが、これが大成功。巨万の富を築くが、物価統制令が撤廃され、競争者が出現すると商売は傾き出す。妻子は、金俊平の吝嗇と暴力を避けて寄りつかない。金貸しに商売替えし、清子と言う女を引き入れるが、彼女が脳腫瘍で倒れる。介護をさせられるが、回復しない。すると甥を呼びつけ「若い女を連れてこい。」定子といういかがわしい女が、入り込む。しかも定子が清子を持て余すと、踏みつけて殺し、事故として処理してしまう。
定子は、子を次々に産み、強くなって行く。ところが金俊平は、脳梗塞で倒れてしまう。定子はますます図に乗る。ある時金俊平は、大金が定子名義になっているのを知って驚く。結局定子も去り、家出していた息子にも捨てられ、財産を処分して北朝鮮に渡る・・・。
愛することを拒み、愛されることを拒み、無限の孤独を感じながら、強烈に生きる主人公金俊平、その毒気に読者は当てられてしまう。しかしこの物語のすごさはそう言う主人公を通して「少し古い韓国あるいは日本の男」の本質はこうでしょ、しかも時としてこういう男が賞賛されていたのでしょ、と語りかけ、反省をせまっている点にあるのだと感じた。最後に主人公が北朝鮮にわたるが、このころは金日成の北が在日韓国人の間で理想と考えられていたことを思い出した。
・同情と理解は軽蔑と嫉妬の裏返しでもある。(93p)
・朝鮮の父親は息子に対して良く「おまえはわしの骨だ。」と言うが、それは家父長制度を象徴する言葉であった。血もまた骨によって作られることを前提にしているからだ。(183p)
・一九三九年十一月、日本政府は朝鮮人に朝鮮の姓名使用を禁止し、「創氏改名」を断行した。(230p)
・ヒロポンの密造(381p)
・成漢(息子)にとって金俊平は父と言うより朝鮮の精神風土の根っこに巣食っている正体不明のぬえのような存在だった。頭が猿、胴がたぬき、手足がとら、尾が蛇、声はとらつぐみに似ているといった不可解な怪物である。だがそれは乗り越えることの出来ない自己自身であり、何処まで行っても己の分身である己が、またしても己の分身を産み続けると行った無限級数的な陣痛にさいなまれるのだ。(407p)
・誰がこのわしを助けてくれる?愛情の対象であるはずの子供が自分から遠い存在になってしまった今、子供が自分を助けてくれる存在であるとは思えなかった。(412p)
990716