文春文庫
警察を退職した男たちの物語である。幹部ならいざ知らず、一般の警官ともなれば行く先は限られている。そこで起こる人生の悲喜劇、元警官としての誇りと現実とのギャップ…・その辺が非常に良く書けていると思った。
私自身は表題策よりも巡り逢う人びと、父が来た日の方が人生の悲しみみたいなものが感じられ、面白いと思った。
愁訴の花
警視庁を定年退職して警備保障会社に勤めている田岡の元に昔の同僚須永の容体が悪いとの連絡が入った。関係者には連絡したが妻殺しで現職刑事の逮捕・実刑判決という前代未聞の不祥事を起こした小谷泰弘には連絡がためらわれた。ところが翌日小谷が須永のことを問い合わせてきて、田岡は逢うことになった。
一度小谷のかみさんに逢ったが、何か「水っぽい」感じの女で、小谷とあまり旨く言っていないように感じた。ある時小谷から「夜中に帰ったら妻が絞め殺されていた。」との連絡が入った。しかし室内は荒らされているものの外部から賊の入った形跡はなく、妻の不規則な生活、家の購入資金などから小谷自身に疑いがかかった。小谷が消えた。田岡が須永に捜査の進展状況を聞いた時「ドブ板をあける気か。」の言葉が気になった。やがて小谷が自首し、事件は解決した。
須永の娘から渡された書類に秘密の書類のありかが記されていた。駆けつけると小谷が来ていた。小谷の妻がコールガールをしており、その組織の客に幹部がいたことが明らかになった。
巡り逢う人びと
岡田俊郎は警察をやめ、ハローワークで見つけた町金の共栄金融に勤めた。ふと町であった昔の同僚から「お宅の会社は寺岡組を使っているだろう。注意しな。」の忠告を受ける。彼は新しい暴対法の恐ろしさを熟知している。
福生の町工場に、金の取り立てに行った。先代が亡くなり、ぼんぼんの息子が社長になっていたが、もちろん不在、悲しげなカミサンと工員が一人。工員は、昔面倒のみたことのある原田則之だった。
金の採りたてに失敗し、電車で戻る途中昔の同級生植村にあった。その妙な行動が気になった。会社では岡田の助言も聞かず翌日寺岡組を福生の町工場に派遣、偶然戻ってきた社長から土地等の白紙委任状を取ってきてしまった。
原田が頭を打ち意識不明、病院に運び込まれたとの情報を受けた。岡田は寺岡組がやったのではと気をもみ、見舞いに行き調べる。幸いそうではなかったのだが…。
父が来た日
父の信雄は、郷里で中堅の建設会社を営む一方、佐多幸吉の地元後援会会長を勤めていた。息子の慎一郎は、なじめず警視庁に入った。しかし四年前の総選挙のおり、佐多の指示で地元の票の取り纏めを行った父は、買収容疑で逮捕され、実刑判決を受けた。慎一郎は、退職したが、やがて佐多に誘われてその運転手となった。
しかし警視庁が慎一郎から佐多の情報を得ようとしていた。ゼネコン汚職で政界はゆれていた。防戦に回る佐多は、ゴルフにかこつけて重要書類を持ち出したり、現職法務大臣などに圧力をかけているようだった。その時の表情はまさに権力の向こう側にいいる機械の顔だった。
父が出所することになった。佐多が偽装入院することになった。入院の道具を届に行った時、慎一郎は始めて佐多の人間的な側面に触れた。
地を這う虫
元警官の沢田省三は昼間は倉庫会社に勤め、夜は三百メートルほど離れた薬品製造会社で常駐警備員として雇われていた。その間の碁盤目のように並ぶ住宅街を沢田は毎日すこしづつ道順を変えて歩いた。
空き巣事件が多発した。4件、A、B、C、D、E地図に落とすときれいな四角形になった。どの家も大した物は取られなかった。現場を見ているうちに沢田はどの現場の真ん中に向けて小さな窓があいていることに気がついた。
現場に入りその窓から覗いてみると中村という豪邸を見ていることが分かった。ある一件意忍び込んでいると、男が二人現われ銃を取り出した。構えた瞬間、沢田は飛び出したが、後ろからガツンとやられて…・。
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