扉の影の女   横溝 正史


角川文庫

扉の影の女
カフェモンパルナスの女給夏目加代子からうけた相談は「一昨日夜8時過ぎ、曳舟稲荷で男とぶつかりそうになった。そして男が落としたらしい血の付いたハットピンを拾った。袋小路の奥で、前に勤めていたお京なるバーの女給江崎タマキの死体を発見した。彼女は「叩けよさらば開かれん、ギン生 タマちゃん」なる紙を持っていた。実は彼女はプロボクサー臼井銀哉を挟んで私の恋敵でもある。ところが昨日の新聞によるとタマちゃんの死体が入船橋下の川の中から発見された。何だか怖い」
さいわい、金田一耕助は、早速等々力警部等からこの事件について捜査協力の依頼を受けた。タマちゃんの死体のあった場所は、ちょうどトロカデロなるレストランの非常口、そのコック長広田から事情を聞くと、犯行時刻、入口の常夜灯は消えており、暗かったらしい。問題の臼井は、犯行推定時刻、名前を証せぬ女性Xと箱根に行っていた。江崎タマキには金門剛なる富豪のパトロンがついていた。
死体を何故移動しなければいけなかったのか。見え隠れする同性愛病患者、ヒロポン密売、ボタン収集広告、沢田珠実名女学生の交通事故…事件は混迷を深めるが、金田一はあの多門修等の協力を得て、着実に捜査を進め、この人違い殺人劇に挑む。
金田一の日常生活が他の作品にくらべて生き生き描かれていることも特色。ただ犯人がそれまでに登場しなかった人物、という点が推理小説としてはやや不満に感じた。

鏡が浦の殺人
東京近郊の鏡が浦のホテルに滞在し、静養していた金田一は、同行の等々力警部と共に、この地で行われるネプチューン祭り最大の行事、美女コンクールの審査員に駆り出されてしまった。ところが、審査が終わって委員長の江川教授がが腰を下ろしたとき、椅子の上においてあったゴム毬にしこまれた毒によって殺されてしまった。
教授はその前日、沖のヨットで殺人の相談をしているのを、双眼鏡を通し、読唇術で読みとったという。この会談が取り交わされた時分、教授はまだ犠牲者としては想定されていなかったらしいから、犯人がねらっていた人物は別にいるはずだ。
そしてその翌日、教授の聾唖の孫娘が、双眼鏡で沈み欠けているヨットを見つけた。すつろヨットの上の女が「ヒトゴロシ」と叫んでいることが読唇術で分かった。
金田一は、関係者一同を集めて話をする事を提案。舞台効果も考え、彼はのっけから「犯人は明らかになった。」と断言した。
実験台殺人、道具として使った共犯者の処理とつながるが、動機だけで犯人が特定されるところがやや不満。
020503