東京異聞 小野 不由美


新潮社ハードカバー

明治29年、帝都東京(とうけいと読ませている)は人魂売りやら、首遣いだの魑魅魍魎が跋扈し、さらには暗闇で鋭い爪をもった犬を使う闇御前、自身は火と燃えて消えながら焼き鏝を押し付けて人を高いところから突き落とす火炎魔人、居合い抜きの男等が次々と殺人を犯し、人々を恐怖に陥れていた。
帝都日報の記者平河新太郎と瓦町の万造が調査に乗り出すと、そこにはどうやら鷹司家のお家騒動が絡んでいるらしかった。五摂家の末になる鷹司家は十年前に先代が死亡、いづれ妾腹初子のもとに生まれた常広か、千代のもとに生まれた直弘が継ぐことになっていた。二人は同日に生まれ、順序からゆけば直弘が家督を継ぐことになるのだが、五年前に去った初子が常弘のみを可愛がり、直弘を追い出してしまった。
増上寺の裏で闇御前に常広が襲われ、忠実な手代佐吉が火炎魔人に突き落とされ・・・。その外にも何人もの無辜の民がむくろとなってころがり、恐怖はいやが上にも盛り上がる。
二人は家督相続をねらって相手を無差別殺人に見せかけて抹殺しようとしているのだろうか、
常弘の愛人で芸者上がりの菊枝や直弘に取り入るおてんばの鞠乃はどう関係してくるのだろうか、といった主題で話はすすむ。
そして最後に直弘が火炎魔人に襲われた常弘を助けようとして浅草五重の塔から転落して死亡・・・・。

泉鏡花と江戸川乱歩のエキスを土台にしたような、官能美あふれる伝奇ミステリーで、闇の世界のおどろおどろしい雰囲気は良く描けていると思う。ただ、事件の動機がどうも弱い気がする、なぞ解きが雑然としている、おしまいが「天皇崩御あって、明けて翌年、弘永二年三月・・・。」というのはどう解釈すべきかわからない、などが不満だった。

・二十年には浅草に富士縦覧所と称する富士山の紛いもの、それに刺激されて翌年すえ愛宕山に物見台、愛宕塔と呼ばれる建物は、煉瓦造り八角形五階建てのものだった。建物自体の高さからいえば、二十三年に浅草に立った十二階に比べるべくもないが・・・・(49p)
・明治五年には左側通行が義務づけられて・・・・十五年に改定された街路取締規則が、大道芸や露商の運命を決定した感がある。(97p)
・秋津島はそもそも、人と魑魅魍魎の世界でございましたのです。(305p)