講談社文庫
三浦市でボートハウスを経営する渋谷に「日米学際協力振興会」な名刺を持つ青柳、樋口、シュタインなどが接触を始める。その直後、渋谷はつけ回された上、海上で、大型クルーザーに襲われ、海に投げ出される。同時に、店をやかれ、愛する店員を殺されてしまった。その上連絡を取ろうとした樋口が、爆殺されてしまった。
再度、青柳に接触すると「ベレンコ中尉が北海道にミグ戦闘機と一緒に亡命するなど、米国とソ連の諜報組織が、日本を舞台に争っている。その関係で君の所にいた野崎という男が撮った写真を、スパイたちが狙っているようだ。このからみで数年前4人のアメリカ兵が当て逃げされ水死体となっている。頼みというのは、ベレンコに次いで、アレクセイエフなる男のソビエトからの亡命を助けるため、エトロフ島のある崖の上に脱出用具を置いてきて欲しい。」金に困った渋谷は、受けざるを得ない。
案内役と称する蛭間老人と共に、エトロフに向かうが、案に相違してアレクセイの亡命を先読みしたか、ソ連軍が展開していた。蛭間を置き去りにするまでの犠牲を払って、渋谷は追っ手を振りきり、国後島に逃げ込む。食料を食いつなぎながら、山中行進を決行、海に出てついに漁船に救われ、北海道に戻る。
自宅マンションに戻った渋谷に追っ手がせまるが、彼を倒したことから一味の内容が少しづつ明らかになってくる。イタリア系のバルボ商会、若林弁護士、殺し屋の平井等。連中に捉えられた恋人順子を救出した渋谷は、写真を種に湘南海岸で彼らと対決する。そして最後に一味の陰からシュタインがあらわれる・・・。
事件が終わってから、青柳の目的が、自分を囮に二重スパイをあぶり出すことだったと知った。渋谷は、青柳がソ連軍に情報が漏れていることを察知しながら、自分を送り出した青柳に怒りを覚える。「自分が自分であることを取り戻すため」、国家のためと称し、自分は後方にいて何人死のうが構わない、発覚すれば自己弁護に終始する青柳に、侮蔑のまなざしをもって別れを告げる。
この作者の作品は全体何か詩を読んでいるような雰囲気。短い歯切れのよい、時には体言どまりの文章が並ぶ。主人公の択捉島、国後島冒険が詳しくスリリングに記述されているところがすごい。作者の処女作だが、消えたフイルム探しというモチーフはその後の作品にも多く使われている。(「行きづりの街」「背いて故郷」)
・我々の仕事の対象が、国家に照準を合わせているというにすぎない。合法だとか、非合法だとか、情報活動にはそのような明確な区別を付けにくい部分もあるのだ。モラルの問題ではないと言うことだな。必要なことがあればやる、それだけだ。国家という複合の組織体は、自分を相手よりつねに有利な立場に置かなければならない宿命を負っている。そのために全機能をフル回転させていなければ・・・・。(103P)
・ずいぶん昔の話だ。人にはみな癒しがたい記憶がある。人の違いは、そのつけをどれだけ貯められるか、器の大きさだけである。(308P)
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