文春文庫
クラウチ商会の倉内優二はイギリスに赴任。クイーン・フォーブスなる小さなメーカーの陶器に興味を持ち、仕入れ始めた。女性オーナーマリアンヌと知り合い,青年時代からあこがれていた「嵐が丘」のヒロインキャサリンを見ているような錯覚にとらわれ、ぞっこんである。
ところがそのころ、北イングランドのホテルでクイーン・フォーブスの辣腕マネージャー、アーネストの死体が発見された。しかも警察が調べると被害者アーネストは偽名で、本名はラファエル・コーエン、二十年前幼少のマリアンヌを誘拐し、最後に捉えられて服役した男だった!
倉内の妻の彰子たちが来英した。マリアンヌ夫妻にシアター・レストランに招待されるが、倉内はマリアンヌにそっくりのダンサー、ルイーズを見つけて驚く。北部の農村の出で、両親に仕送りしているというのだが・・・。
やがてクイーン・フォーブスの経営不振による身売り話が持ち上がり、もともと心臓の弱かったマリアンヌが病の床にあるとの報。やがてこのロマンチック・ミステリーは、マリアンヌの死に発展してゆくのだが、その辺からは本文に譲る。
話全体は身代わりトリックで他の作品にも使われていたように思う。
小説を書く目的で現地取材をしたせいなのだろうか、背景が実に細かく丁寧に描かれている。そのころまったく注意していなかったことが次々に出てくるのでびっくりする。解説によると「小説はデイテールで組み立てられます。デイテール軽視では小説は成り立ちません。」と作者は言うそうだが、なるほどと思う。
その一端・・・・私の知識の整理も含めて。
陶磁器の歴史は中国に始まる。
シルクロードを通ってヨーロッパに運ばれてくると諸国の王侯貴族は競って収集し始め、やがて自国の陶工たちに、東洋の冷たく白い肌をもつ陶器の模倣を試みさせた。1710年代、ドイツのマイセン窯で、初めて白色磁気が生まれた。
イギリスでは少し遅れてウエッジウッドなどが始めた。
ボーンチャイナというのは粘土の中に、動物の骨を焼いた粉を混ぜる。英国基準では35%以上骨粉が含まれていなければならない。
英国チャイナの一流ブランド品はウエッジウッドやロイヤル・ダルトンなどの業界の4大グループに分類される・・・・。
日本人は一般にイギリスになんとなく郷愁を持っているように思う。そういうものを前述の「嵐が丘」のほか、ワーズワースの詩などもからめ、充分にかきたて、旅情あふれるうれしい気持ちにさせる作品といえよう。
ただ、バブル絶頂期に書かれたせいか、日本人が少し得意になりすぎているところが今となっては気になる。
・ イギリス人は何事につけ、絶対に自分の非を認めないですからね。待ち合わせに遅れたって、列車が遅れたのが悪いので、自分のせいではないと言い張ります(上128)
・ 英国国教会の考えでは、人間は死ねばこの世とは断ち切られる。生前の肉体などは、余り意味がない。従って、残された者たちも、骨や墓などにさして執着を持たないわけですよ。(下127p)
・ ジキタリス毒による殺人(下177p)
020301