新潮社ハードカバー
気がついたとき吾輩は、虞美人丸に乗って上海近くに来ていた。うまく脱出してそれから吾輩は野良猫生活を送るようになった。その間のいろいろな苦労は筆舌に尽くしがたい。3ヶ月ほどたったある日、上海ガーデンのアパートの塵芥捨て場で見つけた記事に仰天した。「珍野苦沙弥氏殺害さる」
その後、調べた情報によると、内側から鍵のかかった密室で殺害され、側にはなぜか百合の花がいけてあったという。吾輩は麻薬をかがされ、ここに来た経緯にヒントをあたえるようないくつかの夢を見た。この夢の話はほぼ「夢十夜」を踏襲している。吾輩の昔の話し、夢の話しなどを元に、仲間の猫たちが真犯人を求めて推理する。
<伯爵の推理>犯人は寒月である。苦沙弥氏の細君は寒月とできていた。寒月は現在行方不明で上海にきている可能性がある。
<虎君の推理>犯人は迷亭である。かって学生時代に珍野苦沙弥、八木独仙、迷亭、鈴木藤十郎、曾呂崎、立町老梅、理野陶然は一緒に下宿していた。ところが迷亭の猫が死に、その影響で恋人が死んでしまった。復讐に燃えた迷亭は、全員を殺すつもりである。これ以前に曾呂崎、理野陶然が亡くなっているが、実は殺されたのだ。
ちょうど虞美人丸が入港したので、ホームズの推理を聞く前に、ホームズと吾輩は、船に潜り込み情報を収集することにした。倉庫で彼らが山の芋の中に阿片を隠していることを知った。なめてみると、吾輩は気持ち良くなり、気がついたときにおりの中で向こうから、なんと死んだはずの三毛子が覗いているではないか。彼女は死んだように見せかけておさんに売り飛ばされ、主人寒月につれられてこちらに来たのだと言う。
次に気がつくと、吾輩は迷亭、八木独仙、多々良三平、鈴木藤十郎が麻雀をしているではないか。彼らの話しでは、彼らは阿片貿易目的でこちらに来ているらしい事、あの曾呂崎や主人を殺したのが、露西亜に留学経験のある越知東風らしいとのことだ。彼らが猫を食う話しをしているので、吾輩はあわてて逃げ出し、再びホームズと合流した。そして我々は鈴木が殺されるところを遠くから眺める事になった。しかし突如として侍狗が現れ吾輩はまたも逃げ出した。ホームズによれば侍狗と言うのはバスカビル家に飼われていたものでものすごく大きい。
仲間の元に戻って、報告をする。そして推理の続き。
<将軍の推理>犯人は、迷亭および甘木医師である。おれはかってベルリンモルトケ氏の姪に飼われていたが、そこに二人は下宿していた。この二人にあの日露戦役の陰立役者明石大二郎が接近、二人を軍資金獲得のための麻薬貿易に従事させた。しかし帰国してこれを珍野苦沙弥がかぎつけたため、殺してしまったのだ。
さらに吾輩はガーデンの猫が大量にさらわれた事、光る猫がいるらしいという話し、この事件の裏にはホームズと対決する悪の権化モリアチー教授や怪僧ラスプーチンまで関係しているとの話しなどを聞き、本当に驚く。とにもかくにもさらわれた仲間を救おうと我々は再び船に忍び込んだ。人食いブタなどの動物兵器を発見したのは良かったが、我々は再び捕まってしまった。
しかしおかげで寒月氏の空間のゆがみをすり抜けて時空を飛ばせる技術を垣間見ることが出来た。そして謎が解き明かされ珍野苦沙弥殺害犯が判明する・・・・・。
この作品は「吾輩は猫である」そのものと平行して読んだ。「吾輩は猫である」を読むのはこれで3度目である。
殺人事件の文体は「吾輩は猫である」を、少なくとも前半は良く踏襲し雰囲気を出していると思う。猫が実はいつのまにか船に乗って上海に来ていた、という仮説も面白い。夢の話しもなかなかの物である。
しかしその後がどうも好きになれなかった。光る猫だの、時空を飛ぶだの、と言う話しになるともうSFの世界で、あまりにも本来の「吾輩は猫である」とかけ離れてしまうからだ。もちろん推理小説とは呼べない。さらに「吾輩は猫である」を何度か読んだものであれば、珍野苦沙弥、水島寒月、迷亭などにある程度の思い入れとイメージを持っている。ところがこの作品での彼らの行動形態を見るとあまりにもかけ離れている。せっかく抱いていた良いイメージをぶち壊される思いだ。
010601