角川文庫
昭和11年の両国の川開きで、護送中の泥棒が逃げたとの騒ぎ。その犯人が唖少女と乳母の乗る屋形船に飛び込んできた。恐ろしくなるほどの美少年、しかしながら肌けた肩にむくむくと盛り上がっている人面にも見える腫れ物。美貌の歌手諏訪鮎子から事件を聞いた由利先生と新聞記者の三津木俊介が調査に乗りだす。
この人面瘡を持つ美少年白魚鱗次郎と唖の絶世の美女琴絵、片輪者ばかり集まっている潮吹長屋の住人、不思議なゴリラ人間と細い線画で描いた世にも不思議な稚児の絵像、血に狂ったライオン、奇怪な時計塔、その下にある座敷牢、そして奇妙な呪文と遺された財宝、と作者の作品でも他に例を見ないほど、ユニークな小道具が登場し、話の展開が早い。「髑髏検校」などの時代物を思い出した。
話は最後にこの財宝探しに収斂して行く。
我が子よ 時計塔の底を探りて、我が遺せし財宝を得よ 宝庫の扉を開くは
「九時、七時、三時」
されど我が子よ、心せよ 獅子の顎に陥るな
この言葉通り、最後に悪玉は、時計塔の奥、獅子の口の中にあふれる財宝を見つけるが、首を突っ込んだ途端、顎ががしゃりと閉まり絶命。しかもそれは死んだはずの男だった!一方唖の美女琴絵は声が出るようになり、美少年白魚鱗次郎と結ばれてヨーロッパ旅行に旅立ちました…・という筋書きである。
解説によれば、草双紙趣味に泉鏡花を思わせる耽美浪漫の世界、谷崎潤一郎の影響を思わせる悪魔主義的傾向、お互いに影響し合った江戸川乱歩の美少年趣味などが蚕が繭を編むがごとく丹念にこまやかにかみ合わせ仕上げられている…・その通りと感じた。
美少年は、「仮面劇場」の盲聾唖の虹の助、「真珠郎」などでは悪役だったが、こちらは善玉であった。
020221