ハルキ文庫
大学生の柱田真一は、ある日古雑誌の反古紙の中から樋口一葉の遺稿らしきものを見つけた。友人の三浦町子と、反古紙を出した進藤潜之助への問いあわせ、さらに独自の調査を重ねあわせると、長野県諏訪郡吉浄寺住職島地朝契から進藤に送られた尾形乾山の作という絵皿の梱包に使われていたことが分かった。
真相を確かめるべく諏訪にむかう列車の中で真一は、謎の美女長谷川麻芸に出会う。麻芸は真一に驚くべき事実を告げる。私たちはは前世で恋人同士だった!私は前世では西原牧湖といい、あなたは前世で平吹貢一郎と言った。二人は深く愛し合っていたが、その愛は不幸に終わったのだと。
住職島地朝契は、絵皿は父島地唯空が日本画壇の重鎮大日向雅岳が譲り受けたもので、皿を作った人は雅岳の主催する静明塾にいる男であると告げた。雅岳に会いたい、と申し込むと落慶法要の日に来るから、とのことだった。
麻芸は、かって西原牧湖の父親西原康介に聞いた話のテープを持っていた。「平吹と牧湖は愛し合っていたが、黒光教を熱狂的に信じる妻の富久江が結婚に反対した。平吹をガス自殺に見せて殺そうとしたが、二人とも死んでしまった。そのままなら心中に見えるが、富久江が嫌い、私が死体を別の場所に埋めた。富久江はあなたが牧湖の生まれ変わりだと言うが、確かにあなたは驚くほど似ている。」麻芸は、さらに感性の教えるところによれば、牧湖の前世はボッテイチェリがプリメイラに描いたシモネッタ、平吹のそれはその相手とまで証言した。
麻芸は、渋谷でユトリロの絵のかかる<茶房麻芸>を経営していた。調査を終えて真一は二人でその茶房を訪ねた。ところが麻芸が、注文したコーヒーに持参の人工甘味料をくわえて飲むと急に苦しみだし、死んでしまった。人工甘味料に青酸化合物が入っていたのだ。吉浄寺での落慶法要。真一もまた毒入り飲み物を渡され、危うく殺されかける。
真一は、静明塾を訪れた。塾は戦争中脱走兵などを多くかくまったが、彼らの中には前世、尾形乾山、ボッテイッチェリ、ユトリロ、ゴッホなどの有名人が多くいた。絵をばらまいた男も判明した。前世が樋口一葉だった者もいて冒頭の事件に繋がったことがわかった。驚いたことに静明塾には死んだはずの麻芸そっくりの女性がいた!
麻芸を殺し、真一を抹殺しようとした犯人はだれなのか。その目的は何なのか。麻芸は本当に西原牧湖あるいはシモネッタの生まれ変わりなのだろうか。そして静明塾の麻芸そっくりの女性とは一体何者なのか。謎は深まる!
輪廻転生に彩られた神秘的な話であるが、全体としては無理があるように思った。自分の娘を誤って殺してしまったと考えたが、同じような女性を発見し、転生したものと考え、その思想を件の女性に信じ込ませる、ところがある時娘が実は生きていると知って、転生を信じさせた娘を殺す…・論理上はありだがややこしい。静明塾に前世偉大な芸術家であると信じる者たちが集まったとしても、偉大な芸術家と見分けのつかぬ作品を作ることが出来た、と言うのは都合が良すぎるないか。それとも話全体を大人向けのファンタジーとでも考え、別の見方をすべきなのだろうか。ただ主題は非常に面白いと感じた。
010205