雪蛍         大沢 在昌


講談社ノベルス

この作品が発表されたのは1996年3月、ちょうど作者が「新宿鮫」シリーズで成功を収めた後である。鮫シリーズで、作者は麻薬がらみの犯罪を多く書いてきたが、被害者の立場から、あるいは被害者を更正させるものの立場から書いてみたいと思ったのではないだろうか。そしてそこに作者自身の思いを思い切りぶつけて。社会問題を扱うという点では「B・D・T掟の街」などと同様である。

主人公は佐久間公。彼は初期の作品に登場したことがあるらしいが、私はまだ読んでいない。かって麻薬中毒に苦しみ、今は薬物依存者の相互更正補助施設「セイル・オフ」を運営する傍ら、依頼により失踪人調査を行っている。
作者のそういった環境でのいきざまを描きたかったのか、それぞれで起こる事件を並行して記述している。「セイル・オフ」では「ホタル」と呼ぶ男の更正が主題。ホタルは皆と打ち解けず、ミーテイングにも出席せず、心の殻を閉ざしたままである。放火の癖が在り、ある時とうとう世話している堀田に火傷をおわせ逐電してしまった。ホタルには腹違いの姉吉島麻里という女性がいる。「ホタル」の彼女に対する隠された気持と心を閉ざす理由はどうリンクしているのか。難しいが、やりかけたことをやめるわけには行かぬ。公の悪戦苦闘が始まる。
資産家小倉冴子の依頼は「可愛がっていた娘の雪華十七歳が、自分の経営しているパブ「ラストコイン」の店長立川と消えてしまった。探し出して欲しい。」というものだった。しかしそこには家庭内の問題があり、ただの「家出」ではなかった。冴子の母君子は往年の名女優だったが、財界の大物萩原洋祐と結婚したものの浮き名を流し離婚、今は脚本家柿生にかしづかれて箱根の別荘にいる。冴子も奔放さは変わらずで洋祐の息子や外人とも関係した。その上一緒に逃げた立川は冴子を含む何人かがあこがれたアイドルスターだった経歴すら持つ。
公が調査を始めると、どういう訳か東武会などの暴力団が動き始める一方、昔彼を助けてくれた岡江がおなじような調査を開始した。その岡江が君子の別荘で死体となって見つかった。まもなく東武会の影響下にある羽生組組員斎藤が自首してきた。身代わりと考えた公は真犯人探しを続けるが、東武会に捕まり、半殺しの目に会う。その場では一切手を引くと誓ったものの、それでひっこむ公ではない。斎藤が犯人でないことが証明され、君子や柿生が自分が犯人だと主張し始める。やがて小倉一家を前にして公と東武会の再度の対決が始まる…・。

・ その正しさは、法律であるとか社会正義と言った言葉に繋がるものでは決してない。しいてあげるなら、私自身の人生にとって、と言う言葉に繋がるものだ。(46p)
・ 星の数ほど後悔したって賢くならない人もいるし、後悔なんて一度もしたことないのに賢い人もいるわ。(191p)
・ 景色をほめちゃいかん、まず建物をほめるんだ。(199p)
・ 女は生まれつき男を裁かない。男が許しを請う時に許すのが女だ。罰するのではなく許すのが女の使命だ。(204p)
・ 埋め専門(246p)
・ 男の人は愛情が無くても女を抱ける。女だってそうよ。それをしないのはその人が嫌いか、好きでも嫌いでもないけれど後腐れが恐い時よ。(340p)
000711