行きずりの街    志水 辰夫


新潮文庫

 女生徒とのスキャンダルを問題にされ、都内の名門校を追われた私は、退職後、郷里で塾の講師をしていた。教え子が音信普通になったので、人に頼まれて東京に調査にやってきた。ところが最初から二人組につけられるなどおかしな雰囲気。
 かってあの名門校を牛耳っていた女ボスが、軽井沢の別荘で不審な死を遂げていた。その後を受けてたった金子理事長はおかざり。代議士をバックに持ち、自身は東亞建設グループ等を率いる池辺グループが権力を握ろうとしていた。
 ところが雇い入れた角田なる経理部長が、経理の不正の証拠となる書類と女ボスの死にともなう証拠写真を種に池辺等を強請り始めた!我が教え子はその角田と恋に落ちた結果、角田を追う池辺グループにねらわれていたのだ。
 そして理事長や角田が出入りする小さなバー。そのバーを経営する女性こそ私の別れた妻雅子。残されたわずかな証拠と雅子の協力で私はようやく教え子広瀬ゆかりの保護に成功する。そして私は角田の用意した証拠の書類を警察に届け、ゆかりと雅子を連れて故郷に帰ろうと考える。
 ところがそれをかぎつけた池辺グループが、ゆかりと角田を捜し出し拘束、書類も奪い返してしまう。しかしそのオリジナルを発見した私は、それを種に彼らを追いつめ、ゆかり救出に向かうが、地下室の閉じこめられ・・・・。
 学校の不正をあばきゆかりを救出しようとする冒険部分と同時に、雅子と壊れた夫婦関係を再構築しようとする主人公の努力が、良く描かれている。この小説が冒険小説であると同時に夫婦小説であるという所以である。有名な志水節はあまり見られないが、それでも乾いたそれでいて丁寧な文章が読者を惹きつける。

・彼は生徒ばかりでなく、父兄を、特にお母さんを機会あるごとにほめなさい、と私に言ったのだ。それを抜きにした生徒の向上や環境の良化はありえないと。教育というものを常に全体の視野においてみることを教えてくれた、と言うこことで彼は私にとって最大の師だった。(74p)
・「けど、とうとうやめちゃったもんね。今年の春はこうやって木々の緑を見ても、去年までと全く意味が違って来るんだ・・・・。」男はみんな糸の切れた凧になりたがるものだ。それで女が苦労している。(95p)
・男ほど感傷的で、独りよがりで、依頼心が強くて空想的な思考しかできない生き物は少なかった。これではリアリストの女に勝てるわけがない。(174p)
・六本木は昔のことを言っても始まらないわ。過去がないと頃なんです。現在、現在、現在・・・・あるのはいつもそれだけ。(179p)
・「人間の男はオールシーズン繁殖期なんだ。性的衝動をとったら後になんにも残らなくなる。そのためにも女性の浄化や美化が必要なんだ。」「いやな言い方。それじゃまるで性的な対象になっているだけみたいじゃないの。」(186p)

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