幽霊塔            黒岩 涙香


別冊幻影城

 昔、都から40里の荒れ地に、丸部家はその財宝を隠すために、巨大な幽霊塔を建てた。しかし初代当主は、自分で秘密の迷路に落ち込んで出られなくなり、そのまま見殺しにされた。これを買い取った使用人の輪田阿紺も幼女の阿夏に殺されたといういわくつきの代物だ。今回再び丸部家で買い取ることになり、道九郎が叔父の依頼で下検分に訪れる。
 道九郎は、巨大な目玉のように見える塔の時計を巻く技術を持ち、阿夏の墓に詣でる不思議な怪美人松谷秀子に出会い、心を引かれると共に、秀子から塔の秘密を握る丸部家の呪文を教えられる。秀子は三つの使命を持ち、自分はあるものの力に支配されているという。同行の道九郎の許嫁浦山お浦は、秀子に嫉妬し、正体を見破ろうとし、逃げ出した虎を使って襲わせたりする。あげく阿紺の養子で阿夏と夫婦になるはずだった隣家の高和田長三に助力を求める。一方秀子の同行者虎井夫人、なにやら秀子に結婚をせまっているらしい弁護人権田時助が登場する。
 こんな中、道九郎は、不意に切りつけられる。お浦が失踪した。堀をさらうと、お浦の衣装をつけた首無し死体が出てきたが別人と分かった。これらを調査にロンドンから探偵森が到着する。道九郎は、秀子を支配する者を追ううち、恐ろしい毒蜘蛛を飼う穴川甚蔵に出会い、その牙城養虫園に侵入、ピンチを脱する。このときパリの医師ポール・レベルが鍵を握ることを知り、尋ねる。レベル医師によると、松谷秀子は、獄中死したはずの輪田阿夏その人だったのだ。この事実を森が立ち聞きするが、権田と二人でぐるぐる巻きにしてしまう。
 そして権田は「阿夏を脱獄させたのは私。しかも秀子こと阿夏は阿紺を殺していない。私はその犯人を知っている。秀子を自由にさせたかったら、私に結婚させろ。」と主張。道九郎もしぶしぶ同意する。その隙に秀子は毒薬を片手に消えてしまった。「秀子はおそらく、自殺するつもりだろう。」と道九郎は、時計の中央の穴を起点に激しく追跡する。そして塔の底での出会い、半死半生の秀子を救う・・・。今や犯人も判明し、秀子は自由の身、秀子がその出生の秘密を語り、叔父、権田、道九郎が将来を話し合う。

 この作品は、明治32年8月から33年3月にかけて「萬朝報」に訳載された。原作者は、ベンヂスンと言う夫人で、野田良吉が下訳し、それを涙香が閲っしながら、自分のものとして執筆したという。さらに遺族の了解を得て江戸川乱歩が、その模倣作を書いたという。
 今読んでも非常に面白い。殺人犯の美女が脱獄し、整形手術か何かで全くの別人になるが、事実を知る者には脅かされ続ける。しかし真実は殺人を犯したのは別人というパターンは今でも使えそうなトリックである。
991018