憂愁の人・すたいりすと・ママゴト 城 昌幸

日本探偵小説全集11

憂愁の人
 その晩、寝室に黒い人影、私はスタンドのスイッチをひねったが点きません。私はピストルを取り出し身構えたところ陰が襲ってきたので止むを得ず撃ちました。
今の夫の比良祐介と結婚したのは7年前です。とにかく変わった人でした。英・独・仏
の三カ国語を話し、背が高く、ハンサムで、無口、何をやらせても器用でした。私たちは良く俳優ごっこをして遊びました。そういうとき二人とも登場人物に洋服から気付けまですべてなりきるのです。仕事は夫は何もしませんでした。町の行事も参加せず、灯火管制を守らなかったために焼夷弾を落とされ屋敷を焼かれました。それでも痴人の屋敷に移り、相変わらず夫は何もせず、過ごしていました。いつしかあの俳優遊びも飽きてしまいました、それでも夫は私のことを愛してくれました。
 それだのに私が撃った男が夫であったなどととても信じられません。
 女が嘘をついている、事業が破綻しかかっていたから他殺に見せかけ、自殺して保険金を取ろうとした、など考えられたが証拠はない。検事は「近代人の憂鬱・・・あるいはそうかも知れない。」とつぶやく。

スタイリスト
 私の友人Rの墓は変わっている。共同墓地に百坪ほどの土地を買い、中の空き地に、十文字の敷石路をもうけ、四方にクチナシの花を植え、あいたところにはすべて松葉牡丹の花を植えた。右の隅、敷石路に石作りのベンチが一つ。暑い命日に私が行くとベンチには水色の洋装で、日傘をさした女が一人座っている。「Rさんの家から頼まれて。ご命日にはこのベンチに腰掛けていてくれ、とわれて・・・。」そうか、一幅の名画だ。Rはこれを意図したのだ。うまい!

ママゴト
寺の総門をはいると両側に五、六件の店屋。荒物屋だの呉服屋だの酒屋だの・門前町なのだ。奥に寺の門。境内にはいると小さな本堂がたち、渡り廊下で奥の庫裏につながっているらしい。ところが後で聞いてみるとこれはすべて店屋もふくめて平とい人の小勇物なのだそうだ。しかも夫婦は時折店屋に来て過ごすという。
 人間の日々の暮らしぶりを、いとなみを愛して、それを一種の愛玩物視している、平氏という人間の心が、何とも理由つかず悲しい物に感じられた。
991019