幽体離脱殺人事件      島田 荘司


光文社文庫

警視庁捜査一課吉敷竹史のもとに一枚の異様な写真が届いた。二見浦の名称夫婦岩のしめ縄にからんで男が首つり状態でぶら下がっている。その男は京都在住の証券会社課長小瀬川杜夫と判明、数日前吉敷と酒場で知り合い、酔いつぶれた男だった。
私は森岡輝子、子はないが夫は医者で一応幸せな生活を送っている。美国陽子と私の学生時代からの腐れ縁、彼女はいつも私より優位にたち、私をリードしてきた。しかし彼女はあのわれらの憧れだった津本治との恋にやぶれ、結局4人いた候補のうち、最下位の小瀬側杜夫と結婚してからおかしくなった。一戸建すら買えぬ夫に失望した後、一人息子に夢中になった。しかし一方で私に電話をかけ、私をうらやみ、自分の亭主を徹底的にこき下ろすようになった。夫に言わせると、かなりのうつ病。夫に、相談事を持ちかけたり、薬を請求するようになった。隣の妻の浮気の話を非難したり、津本と再会し、よりを戻した等と自慢化に話したりする。
「布団の中から一歩も動けぬ、助けて。」の依頼に私は京都の彼女の家に2,3日行くことにした。しかし彼女の要求は妙だった。最近買ったブルーフォックスのコートを着てきて、それから履き物はなどなど。思えばそれが私の災難の始まりだった。

女友達の本質を描いた記述が非常に面白い。仲良く見えながら常に対抗意識を持ち、一方が手のとどかぬ高みにいたると猛烈に嫉妬する。「私の夫はどうしようもない。」と言うことは相手には言葉の上のごちそうであるという考え方はなるほどと思った。亭主に失望し、浮気をしたが、浮気中に夫が帰ってきたため、思わず殺してしまった。女は昔からの親友と死んだ夫を心中に見せ掛けて処分しようとするが・・・・。しかし棺の中に潜み、女と浮気相手の会話を傍受するという解決方法は、法的には違法に見えるし、謎を解くと言う観点からは一寸物足りない感じがした。

・日本堤の泥酔者保護所。(27p)
・ 自動車をもてる時代になると、買って自分たちが自動車を所有することなど許しがたい贅沢とか、悪の象徴のように言っていたことを、皆きれいさっぱり忘れてしまった。人間の道徳観念なんていい加減なものだ。戦争中は敵兵を殺すことが正義だった。みずからの嫉妬心や自己愛、時代の空気や財布の中身との相談で、適当に道徳を取り決めているに過ぎない。そんな人情の流動の、もっとも大きな被害を受けたものは、もしかすると私たち女かもしれない。(148p)
・ ・津本は言った。悲しくなるほど自分のない一人の男が、そこにはいた。翼も羽も毟られた、かっては精悍だった野鳥を見るような思いだった。(183p)
・ でもね。秀君。勉強するのはその(いい大学に入って立派な人になること)ためだけじゃない。自分に合った正しい行き方を、いつか見つけるためよ。男としてね。これが絶対ただしいんだって、誰にいわれても胸を張れるような、そういう生き方よ。(302p)

010401