続氷点 三浦 綾子


角川文庫

あなたは殺人犯の子なのですよ、という夏枝のせめに睡眠薬自殺をはかった陽子であったが、幸いにも一命を取り留めた。目をあけた陽子を待っていたものは、殺人犯の娘ではないという事実であったが、一方で不義の子であるという事が判明し、彼女はいっそう許し難い気持ちになる。
一方徹は、陽子の実母三井恵子にあい、陽子の自殺の経緯をつげるが、そのことが契機となって彼女は交通事故を起こしてしまう。そして病院に駆けつけた徹を見つめる冷たい目、恵子の息子達哉のものだった。
4月、陽子は北大の学生になったたが、彼女に執拗に近づいてきた男がいた。その三井達哉である。「あなたは私の母そっくりです。」陽子は達哉が実の弟であることを直感し、さけるよう勤めるが、彼は強引である。
その一方で北原、順子との交流も深まり、4人は支こつ湖に遊んだ。しかしその後の順子から来た手紙は陽子を打ちのめした。順子こそあのルリ子を殺した土工佐石の子であり、心無い夏枝がそれを指摘したというのである。
真相を求めてファナテイックになった達哉は、だまし討ちのようにして陽子を連れ出し、達哉、陽子、母の関係を聞き出そうとする。これを追いかけた北原は達哉の車に跳ねられて重傷をおい、片足を切断することになる。
将来の伴侶を徹、北原のどちらとも決め兼ねていた陽子の心は、これを機会に、夏枝の反対にもかかわらず北原に傾斜する。
氷点が原罪に重点を置いたのに対し、続編ではゆるしに重点を置いている。作者は人を裁くことを罪と考え、たがいに裁きあう人間を描き、その罪深さを読者に訴えようとしている。その意味ではこの作品は成功しているのだろう。ただ正編にくらべると順子が佐石の子であったり、三井が戦地で残虐行為を行っていたり、達哉の突出ぶりが目立ったり、話の進め方が少し強引なような気がする。また登場人物の考え方もどうも甘い感じがし、会話もぎこちないように感じたが、私のまちがいだろうか。

・はたのものの感情に気づかないのは、やはりむごい罪です。死ぬほど淋しい人間が側にいた。それに気づかづに殺してしまったわけですからね(上25p)
・うちの子どもは人工受精児と同じだ。愛がなくて生まれたのは、人工受精に変わりがない(上28p)
・人間はね、いろいろな墓を胸の中に建てているものですよ。(上37p)
・あの子供たちの何人が、父母に連れられてお子様ランチを食べたことがあるだろうか。(上190p)
・(老婆に無関心。)一人一人にとって何の罪意識のない行動のつもりでも、この老婆にとっては、その無関心は、鞭打たれるよりもつらかったに違いない。(上234p)
・人間にはどうしようもないこと、仕方のないことってあるんだよ。・・・人間って、不自由な存在だね。(上293p)
・「一生を終えて後に残るのは、われわれが集めたものではなくて、われわれが与えたものである」(ジェラール・シャンドリ(上320p)
・男は美しい女よりも自分に関心を持つ女に引かれるものである。(上346p)
・包帯を巻いてやれないなら他人の傷に触れてはならない。(下162p)
・自ら復讐すな。復讐するは我にあり。我これを報いん。(下191p)
・自分がこの世の正しさの基準だと思っているのが、人間の世の中だ。(下229p)
・愛不在で正義を求めるものに救いはない。・・・自分が良いとか、正しいとか思っている人たちの家庭には、喧嘩が絶えない。(下230p)
・あなたがたの中で、罪の無い物が、まずこの女に石を投げつけるがよい。(下357p)
・自分がこの世でもっとも罪深いと感じたとき、ふしぎな安らかさを与えあられる。(下367p)