Z            梁 石日


幻冬社文庫

 在日朝鮮人作家朴敬徳は、N出版社の招きで、両親の生まれ故郷の済州島を訪れるが、自分が戸籍上は死亡している事実に愕然とする。戸籍は叔父の朴容勳の息子で血のつながりのない朴大順が、大阪布施にあった土地と共に引き継いでいた。親友の村中と共に布施の朴大順宅を訪れると、冷たいあしらい、そして翌日には殺人事件が持ち上がった。殺されたのは中山という元N組の兵隊。
 事件から2週間経って、韓国内務省の孫基秀が訪れ、朴大順についてしつこく聞いて言った。同じ頃村中も彼らの訪問を受けていた。訪問したバーで韓国訪問時に世話になった康慶珠が事情を話してくれた。日本が敗戦した後、アメリカ政庁は祖国統一を願う朝鮮人に民族主義者、社会主義者のレッテルを貼って弾圧した。カミソリ男なる異名をもつ殺人鬼を使って康の兄を含め、何百人もの関係者を殺した。犠牲になった肉親たちが中心になって、Y秘密組織を作り、カミソリ男、民主化の妨げとなるホッジ中将、李承晩等の命をねらい始めた。マッカーサーは新憲法の考え方を無視し、旧日本軍三千人を募集し、朝鮮戦争に参加させた。彼らのうちの何人かもY秘密組織に処分されたらしい。
 康はその名簿を持っている、と言ったが突然交通事故を装って殺されてしまった。そして名簿は日本の警察がいつの間にか抜き取った…・。
 ここから話は終戦前後の韓国情勢に話が飛ぶ。日本軍の去ったソウル南部の山中にある秘密警察では金満義を中心とする残った韓国人が、膨大な量にのぼる虐殺死体を処理し、情勢の変化を見守った。彼らは米軍の到来と共に、赤狩りの手先として働くようになった。一方、日本軍は呂運享等と敗戦後の方策を話し合い、敗戦と共に政治犯の釈放を行う。しかし日本軍の敗戦した後、韓国は混乱し、ホッジ中将を中心とする米国政庁が支配し、共産主義の進出を恐れて恐怖政治をひき始めた…・。
 朴大順が接触してきた。敬徳は大順をなじるが「これ以上深入りするな。」と不気味な言葉を残して立ち去る。孫基秀がふたたび訪れ、Zと朝鮮に派遣された旧日本軍や暴力団がつながり、麻薬を大量に扱っていると告げ、協力を要請するが断る。新聞社の間宮等から年と共にY秘密組織も恨みが薄れ、今や利権中心に動く様になっていることを告げられる。飲み歩くうちに新宿のフィリピンバーで何者かに捕らえられ、薬を打たれ、Y秘密組織のアジトを聞かれる。解放されて、彼らの中に知人で実業家の金昌英がいることを思い出した。村中と金を追うが、ついに捕らえられてしまった…・。

 話もさることながら、韓国側から見た終戦史が非常によく書けており、私自身のこの時代の認識を改めてくれた。具体的には以下のような項目である。
(1) 38度線があんな風にいい加減に決められた。全く帝国主義の主張やまず。まかり間違えば北海道が占領されていた。
(2) 米軍は日本に先導されて韓国に上陸した。一方日本は日本が負けたのは連合軍に対してで、韓国に対してではない(そもそも韓国は存在しない)と解釈し、韓国は引き渡しまで日本が管理する、という論理を振り回した。
(3) 治安を回復するのにアイデアがないから旧来の組織を使った。日本でも同じで内務省の残りを使った。
(4) 共産主義に対する恐怖からか、アメリカは滅茶苦茶なことをやった。この点は日本でも同じだった。
(5) 日本の敗戦が決まったとき韓国は独立を喜んだものの受け皿がなく苦しんだ。
(6) 李承晩はアメリカが引っぱり出した韓国にとっては問題の多い政治家だった。

 冒頭のパーテイで「二、三時間後にあなたは殺されることになっているのです。」と告げられる夢の話が底知れぬ恐怖感を呼び起こす。全体、話の進め方もわかりやすい文章と相まって、非常にうまい。血なまぐさい、と言われればそれまでだが、歴史記述が物語に奥行きと真実みを与え無理がない。これも人に勧めたい一冊。
990116