亜愛一郎の狼狽       泡坂 妻夫

創元推理文庫

 泡坂妻夫のデビューを飾った短編集。幻影城に1年半くらいの間に掲載されたもので、一作、一作、作家として進歩して行くような感じがする。亜愛一郎という蝶や虫の写真を撮ることが趣味の少し控えめなカメラマンが事件を解決する。全体としてはトリッキーな作品が多いが、その分、手品でも見ているような楽しさを読者に与える。

DL2号機事件
 
地方の宮前空港に、爆破予告を受けたDL2号機が、何事もなく着陸する。土地の名士柴が降りてくる。彼は最近地震の起きたこの土地に豪邸を建て、最近事故を起こした運転手を雇っていた。悪いことは2度続けては起こらない、と信仰に近いくらい信じていたのだ。最後に自分は殺されかかっているかも知れない、それなら自分が殺人をしてしまえばそんな事件は起こらないだろうと考える。

右腕山上空
 
スネーク製菓の宣伝用の熱気球があがる。ところがたった一人乗っていたヒップ大石がピストルで撃たれて死ぬ。そして見物人の中にUFOを見たとの証言。あらかじめパラシュートをつけ、隠れて乗り込んだ男が、犯行の後、スカイダイビングで脱出したもの。

曲がった部屋
 
マンションの鏡像関係にある二つの部屋。一方に金持ちの独身者が住み、他方に金のない夫婦が、住んでいた。夫婦は独身者を殺し、向かいの部屋に住み、死体は自分の部屋に閉じこめておいた。しかし、そのマンションは曲がって建てられていたため、滑り止めが逆についていた。さらに妻の行動に左右を取り違える動きがあったこと、などで犯行が暴露される。

掌上の黄金仮面
 
巨大な観音を建てたところ、その前に巨大なホテルを建てたライバル。その観音の手の上からチラシを撒いていた男が、ピストルで撃たれて死んだ。しかし、ホテル側から撃つには遠すぎる。事実は男は、仮面を後ろに付けて高所恐怖をさけていた。一方ホテルの一室にいた犯人は、別の犯罪現場を見られたと考え、急遽、観音像の中から手のひらにでて、仮面の男を撃ち殺した。

G線上のいたち
 
凶悪なタクシー運転手殺し出没の噂。金潟運転手が襲われ逃げてきたが、タクシーに戻ってみると、そこには犯人の撲殺死体。事実は犯人は二人組で、犯行後一方が、支配権を取ろうと他方を殺し、運転手に罪をなすりつけようとしたものだった。

掘り出された童話
 
ある金持ちが、全文ひらがなで書かれた童話を出版する。印刷屋が誤字をなおしたところ、かんかん。原文のままの出版。ひらがなは閉じた文字と開いた文字に分かれるが、それを使ってモールス信号のツー、トンを書き換えたもので、若き日の犯罪の告白書だった。

ホロボの神
 
戦争中、ホロボ島に残された日本兵は、現地の少数民族と遭遇するが、その酋長の妻の祈祷師が脳溢血でしぬ。そして翌日酋長が、祈祷部屋で日本兵の銃で頭を撃ち抜き、死んでおり、宝石のついた守り神が無くなっていた。そして敗戦の帰途、原浜という兵隊が腹痛で死んだ。
事実は、銃と守り神を交換させた原浜が「妻が生き返る」と酋長をだまし、引き金を引かせた。宝石は胃の中に隠して脱出したが、それが元で原浜は死んだのだった。

黒い霧
 
黒い霧の正体を確かめると、高架の上から電車の通過に伴って故意に落下させたカーボンの袋。亜は、何らかの犯罪を起こした犯人が、被害者にカーボンをすわせ、犯罪がカーボン落下以後に起こったと見せかけようとしたものだったことをつきとめる。