赤の組曲           土屋 隆夫

光文社文庫

 「ビゼーよ、帰れ シューマンは待つ」の新聞広告は、突然失踪した妻坂口美世への夫秋男の呼びかけのはずだった。事実妻は出ていった日の夜、信州別所温泉に坂田ちよなる名前で表れた。秋男に頼まれて、千草検事が捜査に乗り出す。
 新聞広告の意味を知っていた男がいた。坂口の部下牧民雄で、彼はよく坂口の家に出入りし、美世をも知っていた。
 坂口の愛児は1年前に自動車事故で死んだ。牧の供述等から、美世は、その際輸血をした津田晃一なる学生と、津田が目撃したという赤いバイクをおっていったのか、それとも道ならぬ恋に落ちたのか、と推定された。 しかしその津田晃一は、偶然に死体となって発見された。さらに検事は、血液型から死んだ子供が秋男の子でないことに気がついた。
 牧民雄が砒素入りのコーラを飲まされて殺された。日記には、死の前日、美世にあったこと、美世が「自宅に戻る。」と言ったと記録されていた。美世は生きている?さらに秋男は、同じ会社の白鳥ちずると関係していることが分かる。
 混乱・・・・しかし検事は日記に書かれた「めかご」という方言から、民雄がそうであると信じていた美世は、じつは長野出身の白鳥ちずるであったと見破る。交通事故で自分の子が実は社長の子であることを知った秋男は、妻を殺し、白鳥ちずるに妻の役を演じさせ、世間に美世が生きているように信じ込ませたのだった。
 そしてそれに気づいた津田晃一や牧民雄を殺した。・・・しかし検事が駆けつけるのが一歩遅く、秋男とちずるは心中した。

 この作者の作品らしく(1)トリックが重視されている(2)主題がはっきりしていて無駄な記述がない(3)赤で統一された話の進め方が洒落ていて、ロマンがある。(4)文章の格調が高い、などが特色となっている。一気に興味を持って読み、さわやかな読後感が残った。 別所温泉の旅館には美世の指紋が残っているのだが、これは金具を宿泊したおりに指紋の付いた物に取り替えたもの。アイデアとして面白い。指紋の偽造と言えば和久竣三の「雨月荘殺人事件」を思い出すが、あちらは指紋の印鑑を作っていた。血液型の蘊蓄や後半明らかになる錯覚を利用した(牧民雄を証人にした)トリック、方言からの事実の暴露も面白い。

・トテシャン、バックシャン、ドテシャン、バアシャン(163p)
・妊娠の時の一ヶ月というのは、二十八日で計算する。 つまり最後の月経のあった第一日から数えて、二百八十日目が出産と言うことになる。 ・・・・実際に受精するのは、最終月経の初日から十四日ぐらい後になるのが普通です。 つまり、ほんとうの妊娠持続日数は二百六十八日ぐらい、と言うことです。(182p)

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