悪魔の手毬歌    横溝正史

角川文庫

昭和30年の夏、金田一耕助は、静養のため、磯川警部と兵庫県と岡山県の境当たりの山里鬼首村の亀の湯を訪れる。亀の湯は青池リカが運営し、一家には息子と、家の外に出ない何か暗い娘の里子がいる。
磯川警部の口から、亀の湯のリカの悲劇が語られる。昭和7年、農村不況の真っ直中、神戸から恩田という男がやってきてモール生産を勧めた。村は由良家と新興の仁礼家が勢力を二分していたが、衰退気味だった由良家がとびついた。しかしリカの夫源治郎が、リカと恩田の仲を疑い、抗議に行ったところ、顔を破壊され殺されたという。恩田が姿を消し、モール生産は失敗に終わった。
別所春江も、恩田と関係していたが、この事件で居づらくなり娘の千恵子と共に村をでた。村はその千恵子が23年ぶりにスター大空ゆかりとなって、この村に戻って来るというのでゆれていた。
そんなおり、湯時客に来ていた多々良老人が、姿を消した。そして起居していた現場に残る汚物からは、沢桔梗に含まれる猛毒アルカロイドロベリンが検出された。もうとっくに死んだはずの女性りんからの手紙が届いた。
何となく不安が村を覆い始めた頃、由良家(枡屋)の娘泰子の死体が発見された。升ではかって、漏斗で滝の水を飲まされながら死んでいた。
大空ゆかりが帰ってくると、今度は仁礼家(秤屋)の娘文子が死体となって発見された。和服姿で首くくられ、帯に竿秤が差し込まれ、その上に繭玉がのるという妙な形。
この時になって金田一は、殺害がこの地方の伝承民謡手鞠歌にのっとていることを発見する。村の話をいろいろ聞く内に、なんと亀の湯の娘里子、死んだ泰子と文子、それに千恵子(ゆかり)が同級生で、しかもいづれも父はあの恩田であるらしい。
さらに神戸と村を行き来しながら、当時の歴史を調べた結果、源治郎と恩田が同一人物で、当時廃業のうきめにあった活動弁士青柳史郎であることがわかった。源治郎が一人三役も
勤めていたから、逐電した男が見つからないわけだった。
そしてまた殺人。葡萄畑の中で鈍器で殴られた里子の死体。里子は、和服が剥ぎ取られ、無惨な赤い痣のひろがった裸身をさらけ出していた。そして近くに鍵と南京錠。
これで金田一は気がついた。歌にはのっとっているが、殺されたのは風呂屋の娘で、鍵屋の娘千恵子(ゆかり)ではない。誤認殺人ではないか。
金田一が息を潜めて待つ中、犯人は、千恵子(ゆかり)の館に火をつけた。金田一に追われて犯人は、あわてて逃げだし池の中に・・・。引き上げられた死体は・・・・。
女は、二十三年前源治郎こと恩田の浮気をとがめて殺したが、生まれた里子は、病身で痣のある身。ところが生前夫が余所の女に産ませた泰子、文子、千恵子(ゆかり)はすくすく育った。まず過去を知って自分を威し続けた多々良老人を殺した。強烈な嫉妬心が殺害の動機を産み、娘たちを殺していったが、一寸した手違いから実の娘を手にかけた。
見立て殺人の代表的作品だが、手毬歌とその故事は実は作者の手になるものとのことだ。殺害の動機、死体をわざわざ歌に見立てる理由、三人一役などは必ずしも現実に起りうることとして首肯できるものでは無いけれども、プロット、雰囲気描写等はさすがで独特の世界を作りだしているように思った。

(沢桔梗)http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/BotanicalGarden/HTMLs/sawagikyou.html
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