角川文庫
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あいつは体のくっついた双子なんだ。・・・・・
あの島には悪霊が取り付いている。・・・・
鵺のなく夜に気をつけろ。・・・・・
昭和42年、金田一耕助は、刑部(おさかべ)島出身で大富豪の越知竜三に頼まれ、彼の腹心で島の様子を探りに行った青木修三の後を追う。ところが久しぶりに会った磯川警部から思わぬ情報が入った。偽名を使っているが、彼らしい人物が、刑部島の落人岬から身を投げて自殺、漁船に引き上げられた後死亡した。しかし彼はシャム双生児を見たらしい奇怪な冒頭の言葉を残していた。さらに島出身者で市子(巫女のようなもので口よせをやる)の浅井はると言う女性が殺された。彼女は何かを知って誰かを強請っていたらしい。現場からヒッピー風の男が立ち去ったとの情報があった。
青木殺害犯を追ってほしいとの越智の再度の頼みで、金田一はついに島にわたった。島では平家の落人で実権を握っている刑部家と、在来の越知家が長い間対立していた。美しい巴御寮人は神主の刑部守衛の妻で、双子の娘の真帆、片帆を持つ。刑部家出身だが娘時代に越智竜三と駆け落ちしたこともあるという。越智は、最近ゴルフ場を造るなど島の開発に熱心だが、それも巴御寮人目当てとか。
島では七月六日、七日の祭礼が行われようとしていた。金田一と同じ船で来た若者が二人いた。三津木五郎と荒木定吉である。荒木は、九年前にこの島から失踪した父の置き薬の行商人を追っている。神社に黄金の矢をおくり、この機会に島に多くの若者を里帰りさせた越智が、神楽の一行と相前後して島に到着した。しかし神楽の一員、誠と勇は二十年前に神楽太夫の松若の遺児で父の仇を探している。彼らは、また真帆、片帆の会話を盗み聞き、二人が小学生のころやってきた淡路の人形使いが蒸発したことを知った。すると過去に三人もの男が蒸発している。
祭りの日、金田一は、大膳に可愛がられている吉太郎の案内で、オチョロ船に乗りのんびりと、島の周囲を廻ってみる。死者を火葬にする隠亡谷、島に多い双子の象徴か蟹の沢山いる水蓮洞。その夜、金田一は三津木がふと越智竜三に発した「お父さん」という言葉を必死に考えていた。ひょっとすると三津木は竜吉と巴御寮人の子ではないのか。
刑部神社でぼやがあり、拝殿の奥の内陣から、あの金の矢で串刺しにされたプレイボーイ守衛の死体が見つかった。さらに島をでたのか片帆が行方不明になった。
隠亡谷に一人むかった吉太郎は野犬の阿修羅と対決、これを倒すが、同時に片帆の惨殺死体を見つけた。おびただしい鳥のむれ、しかも彼女は首を絞められていた。金田一は越智の妻の証言から若き日の越智竜三と巴御寮人のはげしい恋を知った。三津木が彼らの子、その時の産婆が浅井はる、三人の行方不明者が出ているが、彼らはこの谷で消えたのではないか、と考えた。
守衛殺害のおり、現場近くで目撃されたことを根拠に、三津木が逮捕された。彼はまた浅井はる事件の現場近くにいたヒッピー風の男ではないかとも考えられた。ところが三津木の話になると磯川警部は歯切れが悪い。そして彼は金田一にある書類を託して島を去ってしまった。その書類は、なんと浅井はるが磯川に当てた手紙で「戦争中、あなたの子を三津木家に渡してしまった!」という驚くべき内容。三津木は、彼自身は越智竜三と巴御寮人の子と信じていたが、実は磯川の子だったのだ。
守衛と片帆の葬儀の最中、真帆がいなくなる。村の連中が、殺されてどちらかの墓に入れられたのでは、と墓を暴いている間に、金田一は越智竜三と、かって竜三が巴とトラツグミの声を合図として密会を重ねた星の広場を訪ねる。そしてその奥にある地下の洞穴紅蓮洞を発見、迷い込んだ真帆と骸骨化したシャム双生児を発見する。竜三が巴の間に出来た子だったのだ。シャム双生児に狂乱した彼女はとっさに赤ん坊を窒息死させたのだ。そしてそれを守るように三人の行方不明者!彼らはシャム双生児のお伽衆として飾られたのだ。助産婦だった浅井はるはシャム双生児の秘密を知って、刑部家を脅迫しつづけたが殺された。青木修三はシャム双生児を発見し、犯人に消された・・・・・。
しかし金田一が真実に気付いたころ、洞窟には皆殺しをねらう犯人グループが入り込んだ。そして最後の対決!
晩年の作品であるが、作者らしい良く出来た作品である。エラリー・クイーンの「シャム双子の謎」を思い出す。下津井港を始め岡山の風俗がうまく紹介されている。
・磯川警部について:
思えば金田一耕助と磯川警部の中も古いものである。二人が始めて事件を共にしたのは、昭和十二年の秋の事で、その事件は「本陣殺人事件」として記録に残っている。(16p)
磯川警部も不幸な人である。彼ももちろん一度は結婚し、妻の名を糸子と言った。糸子も磯川警部が南方戦線から復員してきた、昭和二十一年の春にはまだ生存していたのだが、その翌年はかなく世を去った。・・・・夫婦の間に子供はなかった。(17p)
・エピソード 平家物語13巻にある「藤戸」というのは児島半島の地名だそうだ。ここで平家は破れ、屋島に退くが、平刑部幸盛が残党6人とともに刑部島に来た事になっている。また鵺はトラツグミという鳥の事だとあるが本当だろうか。
http://www.gmnh.pref.gunma.jp/Syuzo/010000/VA0000164.html
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