穴の牙            土屋 隆夫  

光文社文庫


人生どこに落とし穴が待ちかまえているか分からない。これはそこに落ちた人たちの実例集。若干暗いが面白さは抜群。
穴の設計書
設計技術者立川俊明の妹千佐子は浅間山で恋人に情死とだまされて殺された。
犯人はなんと上司に石合課長。俊明は氏名を詐称し、お歳暮と称して毒入りウイスキーを送り、呼ばれてそのウイスキーを飲んだふりをして安心させる。
しかし会社を首になった男が課長宅に押し掛け残りのウイスキーを飲んで死んだ。妙な事件!俊明のポケットに穴があいていて、デパートのレシートが現場に落ちていた。

穴の周辺
堀口奈津は夫の留守中、突然出会った元上長の藤岡課長を自宅に揚げたところ、ズボンを脱いで苦しみだし、医者を呼んだが死んでしまった。
虫の好かない近所の主婦などの証言で殺人犯にされてしまう。

穴の上下
少し前から脅えた様子を見せていた夫の木曽雄一が突然姿を消した。
そして暴力団風の男の来訪。彼女は氏名手配中の殺人犯に夫とそっくりの男がいるのを見つけた。夫は殺人犯、あの男は共犯者、悲観した妻の伸子は子供の正仁を道連れに自殺してしまった。
雄一は実は情事の現場を暴力団の男に発見され一時隠れていただけだった。しかし愛する妻子を失ったことで雄一は自殺することに。

穴を埋める
不運な事故で退職させられた刑事戸倉健策は夜間なぜか逃げようとする男を捕らえ、大手柄。
しかし男がつぶやいた「金・・・お堂の松の木・・・」の言葉に、秘かその松の木の下を掘り返すと金と男の死体。
不吉な予感がして金も取らずに逃げ出した。
しかし退職記念にもらったライターがない、あそこに置いてきたらしい。
健策は悲観して自殺する。3日ほどして野良犬がそのライターをくわえて表れた。

穴の眠り
天神小路の奥でひどく底冷えのした夜無職の老人坂上晃吉が殺された。
匿名の投書等で、その辺を担当している市の水道課の加地公四郎が、逮捕されたが頑強に犯行を否定する。
妻の定子や、そのとき加地家を訪問していた集金人の田村らの弁護で、加地は釈放される。
しかし、加地は自宅で青酸カリを飲んで自殺してしまった。やっぱり加地が殺したか。
ホテルの一室・・・定子が田村にしなだれかかり「やっと二人になれたわね。うれしいわ。」
「・・・・一度ひっぱられてすぐ返してもらう。それがこっちのねらいだったんだからね。」

穴の勝敗
佐田洋太郎は金を借りたが故に、およそ色気のない経理課の竹本美枝子と深い仲になった。
美枝子の金でデートを続けたが、やがて金がつき、会社の金に手を着けていた彼女に砒素を飲ませ殺すことになった。
しかし彼女が金を故郷に帰るために洋服を買おうと金を借りた金融会社で 洋太郎のマッチを落として来てしまった。

穴の終局
大学時代柔道部の鬼主将としてならした東京支店の三木は、またも課長になるかも知れないとの夢が破れた。
その上部長として就任してきた志田はかって柔道部でこてんこてんにいじめた男。たいこもちの自己を犠牲にしての暗い生活、思いあまって彼は志田の女好きにつけ込み、殺害し、社宅の庭に埋める。
ところが念願の課長辞令がおり、大阪支店勤務。社宅の庭は掘り返して駐車場にするという。