蟻の木の下で

蟻の木の下で         西東 登

講談社文庫

井の頭公園の羆の檻の前で、羆の爪痕を残して死んでいる野々村の死体が発見された。
そばに新興宗教団体正聖会の部長の金バッチが落ちていた。
死者の戦友だった池見と週刊誌記者の鹿子が調査を開始する。
話が進むにつれて太平洋戦争中の日本軍の下士官淵上の蛮行が明らかになる。
淵上が野々村、池見とともに、矢之浦と争い、蟻塚に捨ててきたこと、阿木谷に見張りをさせ現地の女を襲い、殺したことなどだ。

黒須写真工業は、南興公司経由で東南アジアに高級カメラを2000台輸出することになり喜んだが、キャンセルされた。
実は現地社員宍倉が、南興公司の葉と組み、カメラを麻薬輸出用に使ったのだった。
金を得た宍倉は、当然のように黒須写真工業を辞し、多額の寄付を行って、正聖会の理事に当選する。 黒須写真工業から現地調査に派遣された宗近が、死んで帰國した。 その葬儀に参加した池見は、現地からの写真を見て、宍倉が実は淵上で、宗近があの蟻塚で殺されたことを知る。
その池見が殺される。
タイからは淵上に姉を殺されたキムがやってくる。

ところが宍倉とその愛人が、宍倉の家で、青酸入りウイスキーを飲んで死に、葉があの羆の爪痕を残して殺された。
最後に実は矢ノ浦が生きていて、彼が野々村、池見を殺したこと、葉が麻薬密輸の発覚をおそれて宍倉と愛人を殺したこと、その葉が宍倉を訪ねてきた矢ノ浦に、出会い頭に殺されたことが明らかになる。

話が何本も平行に書かれていて、ややわかりにくい。
しかし、太平洋戦争の陰を入れ、新興宗教のの問題を取り上げるなど、非常におもしろく計算された作品で、息をつかせない。また蟻におそわれる場面の記述は非常に迫力があり、作者の筆力を感じる。

・人間の記憶ぐらい複雑で、微妙で、不確かで、気まぐれなものはあるまい。それは人間の五感が、それぞれに全く種類の異なった能力で、勝手にあるものをとらえ、感得するからであろう。(8p)
・東京の風呂屋というのはね、新潟県と島根県と石川県、この3県の人間が殆どだということですよ。(119p)
・通夜はしめやかに行われるべきものであり・・・・・この国では通夜の席に酒肴を出すしきたりがあり、通夜の席は次第に宴会じみてくるのである。(140p)
・毒入りウイスキーの届け方(272p)