ある抗議書    菊池 寛

創元推理文庫 日本探偵小説全集11

姉夫婦を惨殺された男が司法大臣にあてた抗議書という形を取っている。
犯人坂町鶴吉の死後、「坂町鶴吉の告白」が出版されたが、それによればキリスト教に改心し、喜びにあふれ光栄に輝き凱旋的にこの世を去った、けしからん。
この男によってその幸福な生活を蹂躪された被害者の苦しみをおもんばかって、彼自身にふさわしい恥じ多き苦しみ大き刑罰を遂げるべきなのだ。
刑罰の効果が宗教的感化によって薄弱になっては堪らない。
キリスト教にとってはいかにも本懐の至りかも知れないが、その男によって殺され辱められた多くの男女、もしくは私のごとき遺族の無念はどこで晴らされるのか、というのである。


・あるイタリー人は「愚人聖職に上り、ガリレオ獄中にあり。」 といって嗟嘆したそうでありますが、もしも天国の存在が本当だとすれば、 「加害者天国に在り、被害者地獄に在り。」です。(153p)