新潮文庫
1940年秋、ナチスドイツは空軍による英本土爆撃作戦を、あいかわらず多大の損害
をこうむりながら続行していた。問題は戦闘機で、その可能飛行時間はせいぜい80分
であり、行動半径は120マイル、とても英本土上空における航空撃滅戦を戦いうる飛
行機ではなかった。ところがこれから枢軸同盟を結ぼうとしている極東の日本が開発し
たタイプゼロという戦闘機は、輝かしい戦果を挙げた上、推定航続距離は2300キロ
という。ドイツの要請は、2機をロシア上空を通らずに、ドイツに運んで欲しい。海軍の大貫少
佐と山脇は案件のオーソライズとパイロット探しから始めた。安藤大尉と乾軍曹が選ば
れた。
選択された飛行コースは、横須賀、高雄、ハノイ、ダッカ北方のシラジガンジ、インド西部ラジャ
スタン州のカマ二パル、イランバンダルアバス北方の日本の石油会社が管理する基地、
バグダッド北東のイラク陸軍基地、トルコ、イタリア、ベルリンというルートである。
しかし途中にインドを中心として英国軍、その英国から逃れようとするイラン、イラク
などがあった。
秘密は事前に一部漏れており、英国空軍と遭遇する事もあったが、2機はどうにかイラ
ク陸軍基地までついた。しかしここでイラク独立をねらうフセイン大佐の罠におち、英
国軍基地を攻撃せざるをえないことになる。乾軍曹がついに帰らぬ人となる。それでも12月初旬、安藤大尉はベルリンに到着、盛大な歓迎を受ける。ゼロ戦は、ド
イツに採用されることはなかったが、歴史の1ページを飾ることとなった。
以上のようなストーリーに、若干のロマンスと戦闘機乗りの友情をからませている。ほとんど、事実に立脚し、一部想像を加えた冒険小説、当時の軍の状況、現場の悩みが生
き生きと描かれ、一気に読ませる作品に成っている。安藤大尉の「私は蛮行と愚行のど
ちらかを選べと言われたら、ためらうことなく愚行をえらびます。」という言葉が印象
的。失敗、あるいはなんの意味がないと分かっていても、男は立たねば成らぬ時がある・
・・。
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