大都会             森村 誠一

角川文庫

高度成長時代の幕開けの昭和30年代、帝都大学山岳部員の岩村元信、渋谷夏雄、花岡進は北アルプス白馬岳不帰第二峰を登頂し、友情を確かめあった後社会に巣立って行く。
岩村は、東京の菱井家電に就職、社長秘書を籠絡し、盛川社長にかわいがられ、幹部候補生となる。渋谷は、名古屋にある中小企業の星川電機研究所に就職し、星川社長の娘を得て幸福な家庭を築く一方、研究に邁進し、現代のエジソンと呼ばれるほどになる。花岡は、大阪の協和電機花岡社長の遠縁で、同社に就職、社長の娘を得て、注目される。
協和電機花岡社長は、社内で森派を中心とした強電派に対抗して家電部門を強化するために、花岡に命じ、渋谷を引き抜こうとするが失敗する。時期を同じくして岩村も渋谷にアプローチするが失敗する。
あきらめない花岡社長は、ひそかに放ってあったスパイを使って星川電機の小型カラーテレビ発表を失敗に終わらせ、株価を吊り下げ、株買い占めをはかる。そしてついに星川電機を合併、業績をのばす。合併後、花岡が中心となって、星野電機研究所派の完全解体をはかる。
一方、菱井家電盛川社長は、協和電機の躍進をくい止めるため、、岩村に渋谷抹殺を命じる。岩村は渋谷一家を山に誘い、山火事に遭ったように見せかけ殺そうとするが、渋谷だけが痴呆症になって助かる。
協和電機は、新型小型カラーテレビを発表、しかし渋谷が痴呆症であることが発覚し、発表会を失敗に終わらせてしまった。売り上げは伸びず、新設工場は稼動せず、花岡社長の権威は地に落ちた。社内強電派の首脳陣追求により失脚、花岡は閑職にとばされる。
一方菱井電機盛川社長は、会長から横領を指摘され失脚してしまう。岩村が最後までがんばり盛川の娘美奈子をもらうが貧乏籤だった。
出世戦争に敗れた岩村と花岡は、渋谷を誘い、久しぶりに白馬岳不帰第一峰をめざす。学生時代からあこがれていた山である。渋谷が元気でちょうど二人をザイルで引っ張るような形になった。「痴呆症はとっくに回復しているさ。おれの家族と恩人とおれをよくもこんな目に遭わせたな。」と叫びながら、二人のザイルを次々に切って行く・・・・。

いかにも高度成長時代にふさわしい出世レース話。三人の同窓生それぞれの人生を互い違いに描き、それぞれが絡み合って行く話の進め方がうまいと思った。全体としては良くまとまっているけれど、人間の眺め方がまだワンパターン過ぎる気がする。権田萬治の巻末解説にこの作品が氏の処女長編であり、梶山季之の「黒の試走車」や邦光史郎の「色彩作戦」の影響が見られると言う解説をみてなるほどと思った。

・時間及び空間に対する見当識が失われ、その空虚を補うために空想的なうそを言っているのです。我々はこれをコルサコフ症候群と呼んでおります。(204p)
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