土壇場でハリーライム    典厩 五郎

文芸春秋ハードカバー

三流新聞東都新聞の月田文化部長が社の屋上から飛び降りて死んだ。パラソルを持ち、 靴は左右反対にはいて・・・。調べてみると部長はゾルゲ事件を追っていた。
ゾルゲはナチス・ドイツのソ連侵攻計画の日時をモスクワに打電した。「日本に対ソ攻 撃なし」をモスクワに報告した。さらに真珠湾攻撃をモスクワに打電し、ソ連はそれを 米国に知らせたと言われている。3番目の事実に関する調書を何者かが太陽新聞に売ろ うとし、それを月田部長がかぎつけ、強請の材料に使ったらしいことが分かる。こちら の真犯人はCIAの罠にはめられた奥平常務の犯行だった。
しかし真実は金に困った同僚の村泊が、たまたま金の入った部長と出くわし、撲殺、自 殺に見せかけようとしたものだった。最後に「市民ケーン」の論評文から抜き書きした 遺書を作り、自殺に見せようと最後の努力をするが主人公の記者真木に発見されてしま う。
懐かしの映画や音楽についての作者一流のうんちくが出てきて面白い。ただゾルゲ事件 を詳しく追いながら、ただ金ほしさからの犯行だったというのは今一歩と言う感じがし た。
・電撃性死体硬直・・・・「木口小平は死んでもラッパを離しませんでした。」(71 p)
・第二次大戦中、自国民でありながら、その出身地が交戦国だという理由で、すべてを 奪いつくした国家というものは他に類を見ない。比較できる例として、ドイツにおける ユダヤ人の扱いがあるだけである。一体自由の国アメリカで、どうしてそのように野蛮 で理不尽きわまることがおこり得たのであろうか(132p)