癌病船       西村寿行

角川文庫

北斗号は、世界保健機構の付属機関リチャード・スコット財団が巨費を投じて難病・癌と戦うべく建造した未曾有の病院船である。800人の癌患者と、300名の医師、最新鋭の医療機器が搭載されている。幾多の困難を克服し、人類の未来に希望の灯をともすために、横浜を発ち世界の旅にでた。しかし行く手には幾多の障害が待っていた。
以下大きな障害を4つ扱っている。
イタリア人マフィアグループの中東の敵ハッサン・マラデイ奪還計画。
反華僑グループによるシンガポールの華僑鄭と看護婦誘拐事件
エチオピアの政府と反政府軍の戦いが生み出した新型インフルエンザウイルス事件
アンゴラをモデルにしたと思われるラザール共和国に捕らわれていたルサカ3世の逃亡事件。
勇敢に立ち向かう白鳥船長とハッセン医療団長。彼ら二人の苦悩。
そしてそれらのストーリーの横糸をなす末期癌の夕雨子の運命。
友人のボツワナの少女が自殺直前に描いた海に沈んだ象の絵。
夕雨子に助けられた石根の最後。
簡潔な文章。必要なことのみを述べ、場面展開の早いところはまるで劇画を見ているようだ。しかし感動的な文章を書く人である。同時に驚くほど正確な医療知識のウラウチを感じる。

・SOS等の信号は500キロヘルツで発信する・・・・・航行中の船舶無線は常に500キロヘルツに周波数を合わせていつでも受信可能状態にある。(47p)
・(航行中の船からの救命ボート脱出)救命ボートがまともに着水できたとは思えない。・・・・舷側に吸い寄せられて、押しつぶされる。・・・・さすがにそれをさけて救命ボートは船首近いところのがおろされていた。船首前部だと船の割いた波が救命ボートを突き放す。(60p)
・ウイルスの分離、同定には約1週間かかる。
 患者の鼻腔から採取した駅を抗生物質で処理する。雑菌を殺すためである。それを鶏の受精卵の羊膜内に接種する。受精卵は摂氏33度で3、4日間静置する。培養液に赤血球を加える。インフルエンザが入っていれば赤血球の凝集が起こる。
 そこで赤血球凝集阻止(H1)テストがはじまる。それにはこれまで知られているインフルエンザの抗体を使う。どれかの抗体で赤血球凝集阻止が押さえられれば、問題はない。(150p)
・人工肝臓筒、血液ポンプ、抗凝固液注入ポンプ、輸液セット、血液回路、各種モニターメータなどからなる機器を身につけて、ルサカ3世はベッドに固定されていた。(251p)・ビートは握り拳を二つあわせたほどのガラスのボールを持っていた。猛毒の青酸ガスが圧縮して詰め込まれている。(295p)