原子炉の蟹           長井 彬

講談社ハードカバー

関東電力の九十九里原子力発電所の下請け企業の社長高瀬が行方不明になった。
この事件を追っていた千葉日報の京林に勧められて、中央日報の原田が、整理部の曽我の助力を得ながら、調査に乗り出す。
しばらくして高瀬が青函連絡船から飛びこんだらしいニュース。
しかし調べてみると高瀬は発電所内で殺され、廃棄物と一緒にドラム缶に詰められ、捨てられたらしい。関東電力の総務課長藤平を追求すると一度は白状するが、ニュースにすると、否定され、中央日報は苦境に陥る。 しかしその藤平が発電所内で殺される。
ついで彼等につながる原子力推進派種村代議士の殺人。
いずれも用事にかこつけて呼び出された上での密室殺人だった。
最後は、自宅に現金をばらまいてまでも警戒を強化した不動産屋能代が、警官を語った男に呼び出され惨殺される。 犯人は、関東電力側か、あるいは反対派か・・・・
現場に落とされたサルカニ合戦を暗示する紙切れが、推理の鍵を握っていた。原子炉建設に伴い丹誠こめた農園を取られ、しかも売買料金を詐欺された男の息子の復讐劇だった。その息子とは・・・・・。 原子力発電の現場について非常によく調べてある作品である。

トリックもなかなか面白い。最後に曽我が犯人に言う言葉に作者の考え方が表れているように思った。 「殺人がよいとか悪いとか・・・・私はそんなことを今さら議論したくはないが、あれほど綿密な計画を立て冷静に実行して行く能力の若者が、なぜ、復讐などというもののために、貴重な人生を使い捨ててしまったんだ。惜しいじゃないかね?一度しかない生涯を粗末にしすぎじゃないか。空しいと、君は思わないか。」(292p)

・会社というのは、非常な世間を渡って行くためにのった一蓮托生の乗合船だ。終身雇用に慣れた日本のサラリーマンはそう考えているのではなかろうか。それが哀れな愛社心の正体かもしれない。(111p)
・連絡船の乗客を一人減らす。・・・・切符を2枚買い、一度乗船してから見送り客の顔をして下船、もう一度乗り込む。
・見立て殺人の代表作  「僧正殺人事件」「そして誰もいなくなった。」「獄門島」「悪魔の毛毬歌」(168p)
目的 捜査陣のミスリードを誘う。犯人の自己顕示欲。この作品では分からない目標をおびえさせておびき出す。
・警察に自分を保護させる・・・・現金投入を自分で自分の家に行い、警察に相談する。(265p)
・入口が一つしかない原子炉建屋にまつわる殺人
1 犯人と被害者が、一緒に入り、被害者を倒し、犯人は出口で2度カードを使う。そののち被害者のカードを使い、再入場、一定時間経過後、被害者のカードを使って出る。・・・犯人はアリバイ。
2 名のしられていない者が7人のグループに紛れて入場。抜け出して殺人。7人の証言は「みんな一緒でした。」・・・・犯人はみんなと一緒に作業をしていた。
3 あらかじめ殺した死体をドラム缶に入れ、荷物搬入口より入れる。衣服を着せ、放置・・・どこから死体が入ったか分からない。
4 死体を建屋にいれる暇がなく河原に放置。

* 見立て殺人
* 密室殺人
* 乗車トリック