偽眼のマドンナ・決闘記    渡辺 啓助

創元推理文庫 日本探偵小説全集11

決闘記
 学生時代の友人にどこか理性的でどこかニヒルな諸井蒼十郎がいた。その彼が壮士を気取る安達玄に殴られた。喫茶店ヴィラの女給雅子のためだとか意見があわなかったとかいろいろあったが要するにお互いに虫が好かなかったのだ。二度目に安達が諸井を殴ったのはあの神聖な安達の帽子を尻にひいたからだ。このとき諸井は100円払って謝った。「相場で少し儲けましたからね。」
安達が少し元気が亡くなった頃、諸井は雅子にヴァイオリンで「葬送行進曲」を練習させていた。そして「明日杉並のXXアパートで簡単な素人芝居をやるから見にいらっしゃい。」出席者は諸井、安達、私、雅子。諸井が言う。「安達君は組合の金に手をつけて、それを取り戻すべく相場をやったんですよ。ところがそれで大失敗したんですよ。僕は今日は死ぬつもりで毒入りウイスキーを持ってきたんですよ。そしたら彼はそれを僕からひったくって一人で飲んじまったんですよ。ね、彼は自決しかないでしょ。雅子さん、葬送行進曲を弾いてやってくれませんか。」

偽眼のマドンナ
 小説は所詮うそ。うそをつくならこのくらい鮮やかなしゃれたうそをつきたいと思わせる作品。主人公は公園でQの「幽霊船」という作品を読んでいると、古びた洋服を纏った紳士に話し掛けられた。「今、人を殺してきたんです。」

その男の物語・・・・。
「画学生だった私は、パリで偽眼の美しい娼婦に出会った。頼み込んでモデルになってもらいその絵を描いたが、完成と共に彼女は友人の林と共に消えてしまった。彼女を追って極東イルクーツクまで尋ねたが、そこの話では「彼女は死んだ。林が偽眼と引き換えに立派な葬儀を出した。」ということだった。
 日本に戻って叔父の会社の手伝いを始めた。採用した事務員の中に平野烈子というあの娼婦と同じ偽眼をいれた女がいた。私はじっと観察を続けたが、女は私を避けた。先ほど私はとうとう彼女を襲ってその偽眼をくりぬいた。これがその偽眼です。」
 男のとり出したにせ眼はボンボンだった。男はそれを放り上げ、口の中に入れて去っていきながら、言った。
「私があなたの読んでる本の作者Qです。私の作った物語を誰かに聞いて楽しんでもらおうとおもいましてね。」

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