銀の虚城
銀の虚城 森村 誠一
角川文庫
東都ホテルに就職した高村は、次々脱落して行く仲間を尻目にがんばり抜き、平野と共に最後の2名に選ばれる。
しかし与えられた仕事は、いったん退社し、ライバルの大東京ホテルに潜り込み、中から攪乱して欲しいという者だった。
オーバーブッキングでホテルを混乱させる、
長期ステイで売春していた女をホテル代を盾に自分のものにする、
有名清純スターの不倫場面に踏み込み、姦してしまう、
従業員食堂の飯びつに赤痢菌をばらまく、
団体宿泊客をダブルブッキングできりきり舞いさせる、など攪乱の手口はいろいろ。
もちろんほろりとさせる話も多い。ベトナムで死んだ息子を思って、老母が同じ部屋に泊まるくだりはウールリッチの「聖アンセルム923号室」を思い起こさせた。
記述はエピソード風に書かれて面白く、しかも専門的知識に踏み込んでいるため、ホテルマンの教科書としても十分に役立ちそうに見える。
付票のホテル関係用語略解が役に立つ。
高村は、数年の後に、東都ホテルに戻ることになるのだが、その直前命令した社長が死に、会社は外資系に買収され、行き場を失う。
作者は昔ホテルマンをしていていや気がさし、作家になったという事だが、そのホテルマンライフに対する考えが随所に現れているところも面白い。
・東京ホテル臨時雇員派出協会(177P)
・ホテルマンには精神的自慰すら許されない。フロントカウンターをゴキブリのように這い回りながら、客の感謝だけを生き甲斐に、一度限りの命をすり減らしていく。(263P)
・客室売上伸張案、飲食売上伸張案(291p)
・所詮、どれをとってみても、ドングリの背比べにすぎない有象無象が、ピラミッドの中の顕微鏡的差を争って激烈な鍔ぜり合いを展開する。それも決して実力による競争ではない。今も主任が言われたように、勝のが目的なんだからどんな汚いことをしてもかまわない。(299p)