中公文庫
日南貿易の坂本は、失踪した会社の同僚香取を追うべく、サイゴン出張所に派遣された。
サイゴンは腐敗したバオダイ政権の後を受けて、ゴー・デイン・デイエムがアメリカの支援を得て政権の座にあった。
しかしその徹底した反共産主義政治と独裁政治には反発が強く、ホー・チー・ミンの率いるベトコン、共産主義を嫌いながらゴー・デイン・デイエム政権をに反発する第三勢力などが同政権転覆を狙って、スパイ活動やテロ行為を行っていた。
到着早々、香取の女だったらしいリエンが近づいてきたが突然の消失、香取が親しかったヴェラが行方不明、そしてラシェットと称する女の出現、彼は合同新聞の森脇の紹介で安アパートにはいるが、同時に越してきたズックや反対側のトウの妙に親しげな態度、親しいはずの越南公司のフン社長の奇妙な行動等不可解な出来事が続く。
そして坂本を尾行してきた男が「ゴメスの名は・・・。」の名を残して殺された。
部屋が荒らされ、浴槽ではフン社長が殺されていた。森脇等からは「香取は殺された。香取のことは忘れろ。」と執拗な助言・・・・
森脇はトウに書類を渡すことを依頼されていた。この書類を巡って、ヴェラ実はラシェットとその指導者、ファーレル、ズック等とヴェトコンの指示を受けたトウが争っていた。
森脇はファーレル側の動きをトウに伝える二重スパイだったのだ。
坂本は最後にファーレル側に捕らえられるが、森脇が二重スパイである証拠をがんとしてしゃべらない。
最後に殺される段になって、森脇が裏切り、坂本と捕らえられていたリエンをつれて脱出、坂本はようやく日本に戻ることが出来た。
戦時下の雰囲気の良く出た、巻き込まれ型スパイ小説、一体どうなっているのだろうと思いわせながら、読み進ませるところが素晴らしい。
・わからなくて済むことなら、わからないでいたほうがいい場合もある。(48p)
・(浮気で女の夫が突然行方不明になって)私たちは未来がないという地点で結ばれていたのに、突然未来が割り込んできたのである。(61p)
・他人の理解が人の心を慰めるというのは嘘っぱちである。死ぬ時、人は一人きりで死んで行かねばならぬように、
いきるときも一人きりなのだ。(121p)