角川文庫
大阪阿倍野病院の産婦人科の医師、植秀人は戦争中の臨時医出身で、医師としての劣等感を持っていた。彼は妻と別れた後、狂ったように女漁りを繰り返した。
科長の西沢は旧帝国大学出身で、昔の博士意識を充満させ、植等に尊大であったが街娼安井光子の掻爬手術に失敗し、死なせてしまう。
暴力団員の夫からの訴えをおそれた西沢は、植に有利な証言をするよう依頼するが、植は拒絶しする。婦長の信子はオールドミス看護婦で植には冷たかった。
12月3日、病院の創立記念日に酔っぱらった植は、何者かがおいた睡眠薬入りの水差しの水を飲み、眠ったところをストーブのガス栓を開かれ、危うく殺されかかる。
植は昼間は正義感の強い医師だった。西沢と対立する一方犯人探しに全力をつくす。
妙子は盗癖があり、しかも男出入りの多い看護婦だったが、ガス栓を開いた後に植の部屋を訪れたもので、白い影を見かけたという。
伊津子は植に強姦される形で関係したが、事件の直前に行ったものだった。
犯人は西沢かとも考えられたが、西沢を助けようとした信子。クリスマスの晩、西沢に捨てられた信子は毒入りの葡萄酒を西沢に勧め、自分もあおる。
・師走という月が、通行人の足を早めていた。金策に奔走する人、家庭に急ぐ人、苦しみであれ、幸せであれ、人々の大半は、何かの目的を持っていたようだ。だが植には、その目的がない。餓鬼のように女をあさっても、それは感覚の表皮を掻く、木製の孫の手でしかなかった。生への意志とはなんら関係がなかった。(10p)
・結局医者って商売は、特権意識を持っていることによって成り立つ商売なのね。・・・・取引の相手がはじめから助けて、と言っているんだから。(208p)