講談社大衆文学館
筑豊のさびれきった廃坑の村、泉口。離職者更正の手段として、渡辺勝次は、元スリで仲間に自分の経験と技術を教え込んでいたが、モサ(スリ)は技術的に難しく、捕まる率も高かった。そんなおり、昔の仲間で今は一応更正してビルの保安係になった、桶やの銀こと富田銀三が訪ねてきて「もっといい稼ぎがあるじゃないか」をささやいた。
富田が薦めたのは、デパートの用品売り場での集団万引きである。三ヶ月くらいたったある日、富田が保安係をしている丸急デパートに彼らが現れた。泉口にいた野田とユキに挟まれてマタニテイドレスを着た梅子が呉服売場に近づいた。別の男が店員に話し掛け、注意をひく間に梅子は板芯に巻いてある洋服生地を一巻まるごと飲み込んだのである。
こうして富田は渡辺と再会、富田はズヤ(盗品を売りさばく商売)を頼まれた。断るわけにも行かぬ。集団万引き団は、大胆巧妙な手口とチームワークで、全国のデパートから衣料品を中心に窃盗を重ねはじめた。
それから一年ほどたった。警視庁捜査三課の寺井刑事は森沢部長から万引き団のことを聞かされ、捜査を開始した。寺井はもともとスリ専門の刑事で、富田や渡辺とは旧知の中である。お互い手の内を知り尽くした窃盗団とベテラン刑事たちの虚々実々の駆け引き、そこに醸し出される何とも言えぬユーモアが面白い。
しかし窃盗団のなかには詰まらぬところでぼろを出したり、捕まったりするものが出てくるようになった。捕まっても、彼らは指導通り知りませんを繰り返し、共同の金で雇った弁護士が駆けつけるから、おいそれとは起訴されない。しかし一味の様子は次第に発覚してきた。その上、富田は平和商事なる店を構え、盗品を販売していたが、店舗経営については素人、安くは出来るが、品揃えは無理などで経営は苦しい。とうとう彼がズヤをしていることも当局に発覚してしまった。
追いつめられた富田と渡辺は、解散をかけて、最後に大ばくちを打つことにした。大松デパートの1日の売上金を回収直後に奪ってしまおうと言うのである。掃除婦にばけた富田の妻の春子が、階段に油を巻いたため、富田と集金係の二人が滑り落ちた。もつれているうちにもう一人いることに気がついた。森沢部長だ。富田は、ジュラルミンのケースと共に屋上に逃げた。そして屋上からアドバルーンに捕まり脱出・・・・・。
泥棒集団が雑草のようにたくましく、明るく、活躍する。じめじめしたところがなく、作者の目が温かく、ほのぼのとした作品になっており、会心の悪漢小説(ピカレスク・ロマン)といえよう。窃盗団のメンバーそれぞれの家庭の事情みたいなものが折りに触れて語られているところもうまい。同時期に「仲のよい死体」を読み直したが、作者が文章の書き方を上手に買えていることに気がつく。ブラックユーモアが溢れ、しゃれているところは共通するが、こちらは簡潔に事実を伝えるからっとした文体である。
・ 真打ち、飲ませ屋、幕、シケ張り、店ひき、吸取りとこれで6名になった。(74P)
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