光文社文庫
卓抜した法律の知識、明せきな頭脳にものを言わせて、次々と犯罪を繰り返した鶴岡七郎、その前には松本清張の「目の壁」に出てくるパクリ詐欺も児戯に等しい。これはその犯罪の顛末を書いたものである。
日本が終戦を迎えた頃、彼は東大の学生だった。天才肌の友人隅田光一等と共に、金融業、株式売買等を始める。しかし、隅田の女癖の悪さなどがたたって失敗、隅田は自殺する。
その隅田を救うためにうった新株引換証偽造事件が出発。金融ブローカーに仕立てた梅田にわたし、それを担保にこちらは金を融資したことにする。「担保でえた」偽造証券を善意の第三者として証券会社に持ち込み換金。梅田はドロンと言う手口。
大和皮革事件では手形を換金してやると専務の上松に持ちかけ、期限が過ぎた頃「業者にだまされた。しかし迷惑はかけられない。わたしの力で金策した。」とだまし、換金できた事を祝って乾杯。眠り薬で朦朧となった相手に「これを会社に内緒で投資し、一儲けしよう。」と持ちかけ、承知させ、持ってきた金を再び持ち帰ってしまう。
伊達海運事件では抱き込んだ男に怪しげな手形、さらには偽の手形まで裏書きさせる。手形はすべて顧客が持ち込んだ事にしてあるから、鶴岡は捕まらない。
光村海運事件では銀行員を抱き込み、メーカーから手形を換金する名目で受け取らせ、それがパクられたことにする。鶴岡はその手形を今度は当のメーカーに持ち込み、サルベージさせる。
そして極めつけは大使館を利用しての手形のパクリ。これは抱き込まれた大使館員が手形と共に外国に逃げ出してしまうのだから始末に終えない。
最後にこの事件から足がつくがうまく言い逃れて外国へ高飛びと言う具合。
・軍というものの力がなくなれば、金力が絶対万能の支配者となるが、個人が短い時間の内に巨富を築き上げる機会は、少なくとも資本主義経済のしたでは、国家が勃興するか滅亡するか、こういう場合しかないのだよ。(22p)
・「犯意ナキ行為ハコレヲ罰セズ」という刑法の大原則によって、無罪の判決が下ることは明らかなことだった。(113p)
・強盗によってえた金をその刑期で割って計算すると・・・・1日28円・・・・詐欺の方は2124円・・・。(124p)
・極東軍事裁判でさえ、ある意味では連合国側の官憲思想のあらわれ・・・(125p)
・彼はこのとき「唐宋獄官令」の中にある「鞠獄の官は五聴を備えよ」という名言を思い出した。(306p)
・犯罪は投機のようなもの。・・・・投機はやり方ひとつでは、勝率10割に高められる。(452p)