講談社文庫
千葉地検の城戸検事は将来東京へ転出し、検事正になる夢を持っていた。
大手食品会社の柿本高信社長が自宅で死体となって発見された。死因は青銅の花壺での一撃。死体には白菊の花と赤い曼珠沙華の花がそえてあった。
社長には先妻の子冨美夫、妻のみゆきがいたがみゆきとは不仲で、犯行当日、仕事にかこつけて呼び出した秘書の片岡綾子と関係していたらしい。しかし花壺についていた指紋、冨美男と会社の経理担当中野の目撃者証言、手書きの大金の借用書、白菊に付着していた頭髪等から、元社員で今は金貸専門の深町商事に勤める人見に焦点が絞られる。
人見とみゆきが関係があったため、あるいは社長が人見を通じて会社の金を浮き貸ししていたがその金を略取しようとした等の説が唱えられる。遺産相続がからみ、みゆきが関与していたことも考えられた。しかし、犯行時間にバー女給中里常子と一緒だったとの人見の主張が、アリバイ工作であったと判明し、金目あての犯行として起訴される。
弁護人はベテランの山室だった。人見は犯行前日社長宅を訪れ、珍しい曼珠沙華をいけてある花壺に触った、毛髪はそのとき落ちたのだろうと証言。しかもみゆきは取り調べ段階の証言を否定し、犯行時間、人見と待合で仕事の打ち合わせをしていたと主張、女将もこれを肯定したことから逆転。
目撃証言があやふやだったことが重なってついに無罪判決。控訴期間も過ぎ、城戸は東京栄転がかなわず名古屋行きとなる。そんなとき中里常子と同じバーに勤める別の女給からの手紙がきた。「当日、頬の下あたりにべっとり血をつけた人見を見た。」との証言。
読んでいる間、立件過程に弱さがあるように思い、最後まで真犯人が現れるのではないかとページをめくった。起訴の遅れが決めてとなって、みすみす犯人を取り逃がす事になる制度上の問題点をついた作品と言えようか。しかし結論は意外だった。証言の変化など丁寧に書いている点は非常に面白く、参考になった。
・犯罪の捜査は人格の反映だと、先輩が言っていた。城戸君、僕は一歩進めて、捜査は創作だと思っているよ。(43p)
・検事の捜査と起訴状は、試験の答案みたいな物さ。どんな採点をしてくれるか、戦々兢々としている。・・・・弱きものよ、汝の名は検事なり、といいたくなる。(196p)
・証拠って一体なんだろう。 犯行の後で行為の外形を証拠によって、浮かび上がらせる物なんだ。
証拠は事後において集められる。 だから、犯罪行為を、行為時と同じじように、再現させることは出来ない。
証拠はあくまで、或る程度の形を推測させる物に過ぎない。(222p)