華やかな密室         山村 美紗

中公文庫

父親が失敗し、女学生ながら、ホステスを始めた小川麻子探偵が解き明かす4つのミステリーを納めている。この作家の作品は深みはかける物の、トリックに非常に工夫が見られ、それが特色になっている。トリックを中心に解説を試みる。
父親が失敗し、女学生ながら、クラブ「花屋敷」で、ホステスを始めた小川麻子探偵が解き明かす4つのミステリーを納めている。この作家の作品は深みはかける物の、トリックに非常に工夫が見られ、特色になっている。
華やかな密室
麻子はクラブ「花屋敷」のナンバーツー、リリイがドアチェーンのかかった密室で青酸入りのワインを飲んで死んでいた。鎖をはずして外にでた後、一端の少し開いたC型鎖で外からつなげるところがミソ。(65p)
夜の不死蝶
センセイこと医者の瀬上教授が大事だが、恋人ができてしまったと嘆いていた朱里が自宅で絞殺された。現場の部屋は乱れ、薔薇の花瓶が落ちていた。死亡時刻は前夜11時から午前1時だが、隣家の学生が物の壊れる音を聞いた時刻にしたがって12時とされた。しかしその時刻に容疑者たちにはみなアリバイがあった。
次ぎに瀬上が砒素系毒物を注射されて殺された。瀬上のいた場所に行くには2台の監視カメラの下を通らなければならぬはずなのに、誰も映っていない。
第一の犯罪で、犯人はつぎのような工作をしていたのだ。
(1)あらかじめ電話が来た場合の答え方を教え込み、麻子にクラブから電話をさせ、証人にしたて、自分のアリバイを確立する
(2)犯行時刻を誤らせるために、花瓶をピアノの上から突き出した薄い氷の上に置いておき、落下した音を隣家に聞かせる
(3)犯行現場には足がつかないように盗んだ自転車を用いる
第二の犯罪では、2台の監視カメラは位相をずらしながら、1時間サイクルで動いている。しかし犯人は位相を一致させ、1時間の気にできるわずかの空白のあいだに廊下をすりぬけていたのだ。
事件は医者が、手術ミスをばらすとおどしたホステスを、アリバイ工作をした上殺したもの で、第二の事件は防衛犯罪。
死の同伴者
借金に追われて行き詰まった吉田社長となじみのホステスゆかりが服毒心中した。ついで吉田に大金を貸していたと思われる富士川サラ金社長が密室で殺された。問題はこの富士川殺し。死体のそばにその部屋の鍵の入ったバッグが落ちているところがミソ。リボンをピンでとめ、ハンドバッグの柄を通し、外にでて、受け箱のない新聞受けの口からハンドバックに鍵をいれ、死体側まで滑らせて、リボンを引きぬく。
犯人はなんと吉田を愛していた花屋敷のマダム鮎子だったが、最後に自殺してしまう。麻子は花屋敷を去り、クラブ舞姫に映ると同時に、弁護士の北川とむすばれる。
花のアリバイ
朱美は、やり手で名高いホステス、ナオミ殺害犯を知っていたらしい。しかし犯人を強請ったおかげで殺されてしまった。
刑事に現場を見せられた麻子は、前日まで元気だったシンビジウムの花が枯れていること、花の香水の匂いがするはずのトイレに香のにおいがすることに疑問をもった。犯人は僧侶に違いない。なぜなら法衣が花の香水のにおいでは困るはずだ。彼に犯行時刻のアリバイはあるようにみえるが、タイマーをセットして部屋の温度を下げ、死体の経過時間の推定を狂わそうとしたにちがいない。なぜなら蘭科の植物は温度の変化に対し、特に弱いから。
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