針の誘い           土屋 隆夫 

光文社文庫


 路原製菓社長路原由人と里子が偽電話で呼び出された間に、一人娘で一歳になるミチルちゃんが、誘拐された。まもなく犯人からの身代金要求。場所は突然隣家にかかった電話で変更され、石材店の庭、夜の10時。車の中から由人と毛布に隠れた刑事が見守る中、身代金を持った里子が約束の石門にゆき、なにやら話し、身代金を投げ、その場にうずくまった。「里子!」由人が叫んであわてて駆け寄ると、彼女は錐を深く刺されて死んでいた。 当初疑われた里子につめたくあしらわれた亜矢子、素行の悪い里子の従兄弟の若宮正志、犯行直後現場を通りかかった学生杉本修平等はことごとくシロとなった。路原製菓がミチルという名前を二重三重に商標登録していること、ミチルちゃんがどうも由人と里子の子ではないらしいことが判明し、千原検事は由人の宣伝効果と復讐を兼ねた自作自演と考える。
(1)しかし妻と一緒に呼び出されている時に誘拐出来たのか、
(2)突然隣家にかかった電話をどう説明するか、
(3)車の中にいた由人がどうして里子を殺せたか、
(4)里子が殺された後、自宅に閉じこもりっぱなしの由人にどうやって長野県から犯人の手紙を送ることが出来たのか、
など解決しなければならない問題があった。実は
(1)は無事を確認させた後、殺し、ボストンバックにいれて一緒に外出した
(2)は2階から隣家にかけ、呼び出されて行った隣家ではかかっているふりをした。
(3)はあらかじめ、ベルがなったら犯人と話し、金を投げ、しゃがみ込むように里子に指示しておいた。その後助けるふりをして殺した。
(4)は各地に返信用封筒をいれた観光パンフレットなどの希望状を送り、返送されてきた物を切り取って使った。私書箱を利用している(西村京太郎の「殺しの双曲線」で似た方法が使われている。)
などが謎解きとなっている。
 数ある誘拐物だが、トリックが縦横に使われ、凝っているところが面白い。

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