講談社文庫
京都のデイナーショウにキャサリンは、国際的にも有名なタカノ・ヘア・デザインでとびきり派手な髪型にしてもらって登場、エスコート役の浜口を驚かす。ところが会場控え室で東京食品社長夫人田沢涼子が絞殺された。狩矢警部が調べると、1週間ほど前、東京の球団オーナー夫人浜千秋が棒状凶器で撲殺された。二人ともタカノ・ヘアデザインの客だったことから関連が調べられる事となった。
タカノ・ヘア・デザインは、ミスター・タカノがチーフの三原和夫、森邦彦など数十人のデザイナーをかかえて経営している。浜千秋が殺された時、犯行時刻に三原和夫、女優の岡田眉子、野球選手の早川登、ミスター・タカノの順でその部屋を訪れているが、発見者のミスター・タカノをのぞいて生きていた、と証言している。また凶器が現場になく、誰かが持ち出した形跡もなく忽然と消えていた。
本社3階のガラス貼りの部屋で森が毒殺された。鍵は一個しかなく受付嬢がいつも管理している。ドアは外からのみ鍵をかけることが出来る。しかし鍵はロックされ、受付嬢に返還されていた。どのようにして犯人は密室から抜け出したのか。やがて受付嬢が屋上から飛び降りて死んでしまう。
ミスター・タカノが行方不明になった後、和風旅館の一室で岡田眉子が毒殺された。廊下側からのドアは一つで電子ロック錠にになっている。控えの間と客室双方は障子を介して内廊下に面している。内廊下はサッシのガラス戸を介して中庭に面しているが、さしこみ錠等で固定されていた。自殺でないとすれば、犯人はどこから脱出したのか。
以下この小説は浜千秋殺しの凶器、ガラス貼りの密室、和風密室の解明にだけ力点を置いた書き方なのでその答えをかかげる。
浜千秋殺しの凶器はサランラップの筒で、犯行後 犯人は、血のついたラップをむいてくしゃくしゃにし、ポケットにいれて出たものである。ただそれなら室内にあったバットにサランラップをまいても同じ事ではないかという気もしてくる。似たようなトリックに冷凍した羊肉を用いたロアルト・ダールの「おとなしい凶器」、松本清張の「凶器」がある。
ガラス張り密室事件は、殺された森が普段不便なので本物の鍵を所持し、偽物を受付嬢に預けておいた。犯人が近づいた時、鍵は開いていたか、あるいは森が開けたらしい。犯行後、犯人は森のポケットにでもあった本物を持ち出し、部屋の鍵をかけたと推定される。その後、受付嬢に口実を設けて、偽物の鍵を見せてもらい、その場で本物にすり替えて返したらしい。すると犯人は、森の特性をよほど良く知っていた人間と言うことになる。
和風密室は固定されたガラス戸をこじあけて脱出するが、出たあと瞬間接着剤を使って元通り固定しておくというもの。これは換気扇の口からの脱出などにも見られるようだ
ヘア・デザイナーの内幕と言うことで勢力争い、チップ制度、森邦彦の部屋から見つかったエロビデオの話等があるが省略する。
トリックに重点をおいた作品だが、すこし間口を広げすぎて、問題提起はしたものの未解決で終わったり、矛盾したりしているところもあるようだ。動機の解明もはっきりしない。最初の田沢殺し、受付嬢の転落死、エロビデオ問題、東京食品の乗っ取り問題などは結局どうなるのだろう。最初の浜千秋殺しは、早川が迷惑になるのを恐れて死体がなかった、と言うなら、取り調べ時点で岡田眉子やミスター・タカノはなぜ正直に言わなかったのだろう。
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