平家伝説殺人事件       内田 康夫

廣済堂文庫

警視庁幹部を兄に持つ素人探偵浅見光彦のシリーズ。
「タロちゃん」と「ノリちゃん」は大阪の飯場を逃げ出し、名古屋に向かった。そのころ伊勢湾台風が東海地区をおそっていた。二人は農協に盗みに入ったが、見回りの男を殺したが、その時建物が到壊し、ノリちゃんは押し流されて行った。
それから20年後、銀座のバーに勤める多岐川萌子は客の当山林太郎から「大金の入る仕事」を持ち掛けられ、当山の紹介した友人稲田教由と偽装結婚した。
2年後、深夜、東京から高知に向かうシーフラワー号から、その稲田教由が転落した。船室にいた妻の萌子は船会社の不手際をなじった。定刻より2時間遅れて紀伊勝浦についたが、堀ノ内は、船をおりたトーヤマという男の目が妙に気になった。稲田に高額の保険金がかかっていたから、船会社に、保険会社の問い合わせが相次いだ。
2年後、下落合のマンションから男が落下し、死亡した。今度はあの当山林太郎で、目撃者は多岐川だった。当山の部屋を調べると入口ドアはロックされており、2個のカギはサイドボード抽斗と上衣のポケットにあったから密室である。
堀ノ内が親友浅見光彦に相談した。保険会社はすでに稲田の保険金を払ったとしているし、警察は当山の死を自殺として処理していた。しかし二人は稲田と当山が同年齢で、共に平家の落人の里として知られる高知県幡多郡西土佐村藤ノ川であることに気がついた。
藤ノ川に行った結果、「当山と稲田は昭和34年に村を出た。音信不通だった稲田は、2年前突然故郷に帰ると言ってきた後、シーフラワー号から転落して亡くなった。その後稲田の妻と称する女性から1000万円が贈られてきたが、稲田家の娘佐和が東京に礼に行くと会うことを避けた」と分かった。
浅見は、多岐川を、さらにその里静岡を訪ね歩くうち、シーフラワー号事件が保険金殺人だ、との確信を強めた。当山は、稲田に多岐川と偽装結婚させ、多額の生命保険をかけた。シーフラワー号上ではあらかじめ録音しておいた悲鳴をテープレコーダ毎海に投げ込み、萌子には夫がいなくなったと騒がせる一方、自分は稲田をつめたバッグをもって那智勝浦で降りてしまったのだ。
シーフラワー号事件では誰も死んでいないらしい。すると稲田はまだ生きているのか?当山はなぜ自殺したのか。高知から出てきた佐和と多岐川が対決する。やがて伊勢湾台風での「ノリちゃん」こと稲田の死が確認される。
実際には死んだが、戸籍上生きていることになっている男を利用した保険金詐欺が興味深い。
また背広のポケットに鍵のついた釣り糸を通し、ドアを鍵で閉めた後、郵便受けから鍵を室内に入れ、釣り糸の操作で鍵をポケットに戻すトリックも目新しい。このトリックを応用すれば、部屋の外から室内の任意の場所に使用したカギをおくことが出来そうだ。
伊勢湾台風のプロローグに始まり、「シーフラワー号事件」、当山のマンション飛び降り死と続く序盤の展開はすばらしい。ただし後半は稲田が生きていて潜伏したと考えても話は成り立つ気がした。浅見と佐和のほのかな恋が話しにいっそうのふくらみを持たせている。

・ 保険金詐欺といえば・・・2種類の方法に限定される。一つは保険契約者を殺害する方法であり、もう一つは、契約者自身が死亡を偽装し、潜伏することだ。(311P)
r010517