左手に告げるなかれ      渡辺 容子

講談社ハードカバー

 私、八木薔子はスーパー、デイン・ドンの保安士をやっている。元々は一流大学をでて大会社に勤めたが、木島と言う妻子ある男と不倫関係になった。それが木島の妻裕美子にばれ、多額の慰謝料を払わされた上、会社をやめる羽目になった。
 その裕美子が自宅で刃物で刺されて殺された。不思議なダイイングメッセージを残して・・・・。
 警察から疑われた私が、木島を従えて調査を開始すると、さるコンピュータ会社から調査を依頼されているという「探偵」が割り込んで来た。殺された裕美子は、同じマンションの管理人吾妻、犬を飼う飼わないで喧嘩し、あげくは追い出した丹羽夫人などの評判によると散々。しかしフリーターの三木には良かった。
 探偵から得た情報で、最近、デイン・ドンの磯子地区を担当するスーパーバイザーが4人も不振な死を遂げていることが分かる。そして4人目の男と裕美子は共に傘を使って殺されている。裕美子がデイン・ドンでファックスを使っていたことも分かった。
 原因は大きくなりすぎたデイン・ドンの幹部を、親会社のミギワヤが追放しようと、探偵に依頼したしたことから始まった。近所との関係のもつれではなかったのだ。実は探偵本人が、4人を次々に殺し、更に4番目の殺人の直後、現場で出会った裕美子を殺したのだった。
 4人の殺害は、クリステイの「ABC殺人事件」やマクベインの「警官嫌い」と同じ発想で、真の殺人目的の偽装。 裕美子は善行を働くがそれを吹聴した。三木は実は探偵が変装していたもので同一人物。アパートにひっそりと住み、近所のうわさに耳を立てていた。彼は裕美子のおしゃべりを知っていたので、彼女が目撃したことを吹聴すると恐れたのだ。
 最後に探偵に木島、薔子、管理人の吾妻が捕まる。探偵の目標は、実は、昔、母を捨てて逃げた父、吾妻への復讐で、ミギワヤに頼まれたのを機会に目標を果たそうとしたものだった。3人、危機一髪・・・・

 スーパーの内幕と保安士の仕事が実によく書けている。作者はひょっとしたら本当に経験者ではないか、と思うほどだ。また人物の特色もよくつかめている。
 しかし殺人の動機、最後のつめなどはややマンガチックと思った。人はこんな安易な殺人はしない、変装はこんなに簡単ではない、こんなにうまくハッピーエンドになるわけはない、と思った。

・万引きした子供の親を呼び出すとね。父親は我が子を叱りつけることで愛情を示すのよ。でも母親は逆。子供をかばって・・・・(53p)
・(お年寄りに)「おじいちゃん」「おばあちゃん」は禁句であるという。(101p)
・あなたが、施しをするときには、右の手でしていることを、左の手にさえも知らせないようにせよ。(106p)
・自分で自宅に進物をおくるというばかげた行為(124p)
・嫉妬は必ずしも嫉妬の顔をしてあらわれるとは限らない。(126p)
・深夜シフトのバイトが大勢友達を呼び寄せて、店で派手に酒盛りしてた・・・(132p)
・縁がちょっと欠けたカップが、倦怠期に入った夫婦、どちらかの浮気だとするだろ。浮気の現場を押さえた写真、真相をつづった報告書は、カップを壁にたたきつけて割ることと同じなのさ(141p)
・イギリス文学に造詣を深めるのが目的でやってきているのは2、3人。あとのおばさんはみんな、講義の後、喫茶店や居酒屋で講師を囲んでだべるのを楽しみにしているらしい(156p)
・あなたも後一年ぐらい一人暮らしを続けて見れば分かるかもね。ゴキブリすら愛しく思えるときがあるものよ。(201p)
・死ぬこと。これは自然の摂理であるが、残された者からすると、非常に大きな罪なのだ。(218p)
・喪主の席で、おれは何を考えていたと思う?この程度に顔を歪めれば、弔問客には嘆き悲しんでいる旦那って風にみえるかなあ。(230p)
・子供の頃見た親父のケツは・・・厚みがあってイカシてたんだ。それがいつの間にかしなびたピーマンだもんなあ。(243p)
・金魚鉢の水が青くなる・・・中和剤で透明になる(296p)
・定期的に配られるドリンク剤に睡眠薬(333p)

* 変装トリックで一人二役
* 傘の先殺人

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