講談社文庫
藤谷秋弘はしがない旅行エージェント。
しかし縁続きの藤谷建設は、藤谷義隆の死後未亡人の綾子が、堅実な経営で社業をのばしていた。副社長は息子の典雄。一方腹違いの息子和正は、源氏物語の専門家、妻晴子にしに分かれた後、後妻に若い尚子を得ていた。
実はその尚子と秋私は深い関係にあった。
秋弘は綾子の姪で医者の吉川珠江の紹介で、藤谷家に入り込み、一家の阿蘇旅行の案内役をすることになる。一方、和正からは、先妻晴子の母はつとその恋人だったらしい山本の過去を調べるように頼まれる。
阿蘇旅行中、隠すことなく私を求めていた尚子が、突然姿を消し、阿蘇火口にはホテルの乗り捨てられた車が1台。そして珠江の知り合いで、貝沼碧との婚約で典雄に捨てられたミキもまた姿を消す。そしてミキからの生存を知らせる電話。なぜか蒼白となる典雄。
事件は、尚子が私との不倫を綾子に責められて自殺し、ミキは私的な理由で姿を消したと言うことで終わりを告げようとしていた。
私が、はつの実家を調査すると現存しないはずの源氏物語雲隠れの巻のうつしらしきものが見つかった。しかもそれは変体仮名を使用することによりはつと山本の恋文に利用されたいた。雲隠れの巻は本当に存在したのだろうか。
そして阿蘇のホテルの火事。
ひょっとして尚子とミキの失踪は関係があるのではないか、と考えた秋弘は再び阿蘇に赴き、ホテルの加瀬と現地を調査し、ついに顔を潰され土中に埋められた女の死体を発見した。警察の事情聴取で、実は典夫が自殺したミキを発見、死体処理に困り埋めたと自供した。
しかし秋弘は、雲隠れと同時に発見された若紫の巻のコピーから和正出生の秘密と自分に調査を依頼した理由を知り、併せて一家の愛憎関係が源氏物語のそれに非常に似ていることを発見する。さらに書類を管理していた倉田老人の助言で雲隠れも若紫もすべてが偽で何者かがある目的のために作成したことを知る。
阿蘇の火口に珠恵をいざなった秋弘は
「あなたは紫の上の役だった。光源氏役の和正は、あなたを愛しながら、決してあなたと結ばれようとはしなかった。あなたは和正と結ばれるため、尚子を追い払い、和正の源氏物語オブセッションを放棄させねばならなかった。そのために源氏物語を利用した暗号文を作り、典夫に捨てられて消沈しているミキに尚子を殺させた。そしてミキの死体と偽って典雄に埋めさせた。さらに証拠隠滅をはかるためホテル火災を起こし・・・」
しっかりした筋立てと無駄のない文章が魅力だ。また読者に源氏物語雲隠れの巻が見つかったのではないか、コピーが恋文や出生暴露に使われたのではないかと思わせるところが魅力だ。
ただ人間関係をあまりにも源氏物語と同じようにしようとしたところに若干の無理があるように感じた。和正が実は桐壺になぞらえた義母に恋し、現在の恋人尚子を柏木になぞらえた秋弘とあらそい、さらに紫の上になぞらえた珠恵にはプラトニックラブを抱くだけ、と言うのは何か現代社会にそぐわない気がした。
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